2022(令和4)年度は資料調査を重ねつつ、論文2本を公表して研究成果とした。前年に引き続き、新型コロナウイルス流行の影響を受けた年となり、海外等の遠方への資料調査を行えない状態にあった。しかし、研究拠点から近隣にあたる首都圏下の公共図書館や大学図書館、資料館等で丹念な調査・分析を行うことができた。 研究実績として、2本の論文を公表した。第一に、『日本歴史』第890号において、「海外植民をめぐる自由党と榎本武揚:明治中期「出移民」の政治動向」を公表することができた。明治中期において、日本から海外へ移民・植民が送出される政治的要因を解明し、その過程から国是策・積極主義を主唱した自由党と、海外植民の奨励に熱心であった榎本武揚とが協調関係を築いたことを指摘し得た。また、殖民協会の設立を分析対象とし、国是策である海外移植民事業は、党派間の競争が不問であるとする「超党派」志向が政党員や官僚の間で共有されはじめていたことを明らかにした。 第二に、『コーヒー文化研究』第29号において、「榎本武揚の植民政策とコーヒー : 殖産興業から帝国化へのあくなき射程」を公表した。沖縄・小笠原における日本で最初のコーヒー栽培に着目し、その建言を政府に行った榎本武揚による植民政策(南進論)を明らかにした。その際、単に国際情勢を分析する手法や、地政学的な視点のみの分析に留めず、殖産興業政策(=コーヒー栽培)が植民政策(=国権拡張)に連動するかたちで、植民地帝国の建設構想を作り上げていたことを解明した。 2022年度は本研究の最終年度にあたり、以上の研究発表以外の実績については、研究補助期間の終了後において、漸次、書籍や論文といったかたちで公表していく予定である。
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