研究課題/領域番号 |
19K13331
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
志村 佳名子 信州大学, 学術研究院教育学系, 助教 (00759665)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 除目 / 三条西家 / 儀式書 / 故実 / 宮廷儀礼 |
研究実績の概要 |
2021年度は、主として三条西家が書写した九条家流の除目書である『無外題春除目』について、その書誌の総合的な研究を行った。本史料は、①天文九年(1540)に三条西公条が書写した除目書『除秘鈔』とほぼ同時期の天文年間に三条西家で書写された除目書であり、②九条家本『春除目抄』とほぼ同内容を持つ箇所(甲群)と、除目作法の詳細に関する問答形式の故実書(乙群)から成り、甲群に挿入された任官例のうち、最も時代の下るものが仁治三年(1242)であることから、本書の親本の成立はそれ以降と推測される。また、③乙群の内容は、九条家本『春除目抄』記載の除目作法に則した除目作法の問答集であり、『春除目抄』の補遺的性格を持つ。問答に答えるのは、藤原忠通由来の九条家流作法を相承する有職・藤原(松殿)基房と思われるが、問者は基房と公事問答をしたことがある九条良経・道家のいずれかと推測される。加えて、④三条西実隆が著した『除目次第私抄』(宮内庁書陵部図書寮文庫所蔵)の識語等によれば、三条西家は実隆の父・公保の代に二条家から下賜された春除目の次第書を通じて九条流の除目作法を相承するようになり、実隆はその次第をもとに『除目次第私抄』を編み、娘婿の九条尚経から九条流の作法について更なる情報を得ていたこと、⑤三条西実隆の子・公条もまた九条家本『春除目抄』の勘物部分を中心とした写本(尊経閣文庫所蔵『春除目抄』)を作成するなど、摂関家に相伝される除目書の閲覧・書写が熱心に行われ、その親本については、三条西家が二条家経由で九条家流作法を記した除目書を閲覧・書写した可能性が高いことを明らかにした。 上記に加え、古代の任官儀から除目儀への転換過程を考察し、古代から中世における除目儀と除目書そのものの成立・発展の過程の解明に向けた準備作業を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の中心となる、未解明の史料であった明治大学図書館所蔵『無外題春除目』について、その翻刻・解説を書籍にまとめ、刊行することができた(明治大学除目書刊行委員会編『明治大学図書館所蔵 三条西家本除目書』八木書店、2021年)。ただし、当該史料の検討に時間がかかり、他の三条西家旧蔵の除目書の分析が遅れている。しかしながら、上記史料の熟考により、尊経閣本『春除目抄』等の摂関家流の除目書との接点がより明確になったため、おおむね順調に進んでいると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
本課題は当初の計画では今年度が最終年度であったが、新型コロナウィルス感染症の流行による移動制限等の影響で史料の所蔵機関への出張回数が減少したこともあり、研究実施期間の延長を申請した。そのため、今年度が最終年度となる。 今年度は、引き続き三条西家所蔵の除目書(国文学研究資料館所蔵『除目抄 下』等)の書誌の考察を進めるとともに、除目と同様に重要な太政官の政務儀礼にも着目しながら、古代・中世の朝廷の政治制度を解明する新たな視角の確立に努める。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症の流行による移動制限や施設の休館等により、史料の所蔵機関への出張が叶わなかったため、次年度使用額が生じた。 次年度使用額については、旅費および消耗品費に使用する予定である。
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備考 |
志村佳名子「古代・中世の除目儀と除目書」・「三条西家本『無外題春除目』とその伝来―九条良経撰『春除目抄』との関係を中心に―」(田島公企画・監修『金鵄会館連続公開講座「三条西家本「除目書・同紙背文書」を読む―「明治大学 図書館所蔵三条西家本除目書」影印本の刊行を記念して―」講演集』 [東京大学史料編纂所研究成果報告2021-15] 全103頁 2022年3月)
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