本研究課題は、近世を通じて日朝関係が対馬藩に委ねられていた事実をふまえながら、とりわけ折衝の最前線を支えた通訳官(朝鮮通詞・倭学訳官)に着目し、近世近代移行期における日朝外交システムの変容/継承のあり方を具体的に追究しようとするものである。研究対象史料である対馬宗家文書は、日本国内各地および韓国国史編纂委員会に分散して所蔵されているが、本科研テーマについては、韓国国史編纂委員会所蔵のものが多く関係するため、主に韓国での史料調査をおこない、それを分析する形で研究を進めた。 昨年度までに引き続き、今年度も、日朝双方の意思疎通を担った通訳官の活動を、対馬藩政史料を中心とする関連史料の中から明らかにしようとしてきた。研究の成果の一部として、研究書籍の分担執筆2篇(「日朝関係と対馬藩」、「対外関係―近世日本の「内」と「外」」の項のうち「日朝関係」)、書評1篇(書評 岩﨑奈緒子『近世後期の世界認識と鎖国』)を発表した。また、第19回「訳官使・通信使とその周辺」研究会で書評報告、名古屋大学で開催のシンポジウム「人びとの近世史」で研究報告をおこなったほか、愛知県一宮市の尾西歴史民俗資料館で「江戸時代の外交使節」についての講演をおこなった。 研究期間全体を通じて、日朝外交の非連続性のなかで、外交を支えた通訳官の活動の連続性がある程度見えるような成果が得られたことと思う。ただ、Covid-19による海外調査の制限や研究代表者の研究環境の変化(所属先変更)の影響で、当初の研究計画にあった他国・他地域の通訳官との比較検討はまだ研究の蓄積段階にあり、今後さらに追究していかなければならないと考えている。また、近世近代移行期の研究を進めるなかで、幕閣内部の動向や、蝦夷地や長崎といった他地域における幕府対外政策との関係の重要性を再認識したため、今後これらが新たな課題となる。
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