本研究課題は、平成29・30年度科研費(研究活動スタート支援・研究代表者長谷川裕峰・研究課題名「『阿弥陀房抄』および延暦寺論義書の基礎研究―学僧ネットワークの系譜―」)で明らかとなった『阿弥陀房抄』の所蔵状況(拙稿「『阿弥陀房抄』覚書」(『坂本廣博博士喜寿記念論文集 佛教の心と文化』p.729~p.758、2019年)参照)に基づいて分析を進めている。 本年度は、『阿弥陀房抄』の翻刻を通して比較検討を進めた結果、以下のような具体的な研究成果をあげることが出来た。昨年度までの「『阿弥陀房抄』法身八相(一)」(『叡山学院研究紀要』42、p.41~p.54、2020年)・「中世延暦寺の論義書にみる法身八相」(『天台学報』62、p.111~p.121、2020年)・「『阿弥陀房抄』法身八相(二)」(『叡山学院研究紀要』43、p.37~p.67、2021年)に加えて、「『阿弥陀房抄』三周未来成道(一)」(『叡山学院研究紀要』44、p.75~p.93、2022年)を新しく翻刻・史料紹介した。その上で、「証真教学の継承をめぐる一試論―『阿弥陀房抄』法身八相を中心に―」(伝教大師一千二百年大遠忌記念『平安・鎌倉の天台』p.581~p.623、山喜房佛書林、2021年)を上梓し、本史料群の中には「実際に使用された竪義の論草」と「学習のための想定問答・例講問答」という二系統の論義史料が併存する点を解明した。 これらの分析は、『阿弥陀房抄』の教学的背景(宝地坊証真学派との関連)を明らかにするだけでなく、当該期の法華大会広学竪義において展開した具体的な天台論義の一端を実証する嚆矢となったと考える。
|