本研究で扱った『阿弥陀房抄』は、天台教学の最高権威者である探題が作成した試験問題・受験対策としての練習問題を収録している。そのため、比叡山における教学・修学の実態、特に学僧育成のカリキュラムに果たす論義の役割を解明するのに、大きな手掛かりとなる未翻刻史料群であることが明白となった。中世人の世界観が当該期の仏教教理に多大な影響を受けていた点や、その思想的背景に民衆社会へ積極的に進出していた延暦寺による文化的な動向が関係していた点は、既に先行研究において指摘があった。しかし、それを牽引していた天台学僧の輩出に関する具体的なメカニズムは未勘の課題であり、本研究はその嚆矢と位置付けることが可能である。
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