厳島に伝来する「厳島野坂文書」、「御判物帖」、「巻子本厳島文書」、「新出厳島文書」、「野坂文書」、「房顕覚書」、「大願寺文書」等3100通余りの膨大な中世文書は、昭和50年代に刊行された『広島県史 古代中世資料編』Ⅱ・Ⅲ(「厳島文書編」1・2。以下、『広島県史』と略す)において活字化されている。戦後行われた嚴島神社を中心とする中世史研究の多くは、『広島県史』に収録されている古文書に依拠している。しかし、本来ならば『広島県史』に収録すべきだった中世文書(「野坂文書」、「大願寺文書」)が別に存在していることは早くから知られていた。 そこで本研究では、厳島に伝来する文書のうち、「野坂文書」と「大願寺文書」について、『広島県史』未収録の①中世文書、②中近世移行期の文書、そして③中世文書の写について追跡調査をおこない、目録を作成し、全容を把握することを目的として取り組んだ。 これにより、「野坂文書」及び「大願寺文書」の中から新たに多数の中世文書を発見し、所蔵者の許可を得ることができた「野坂文書」21点、「大願寺文書」19点の翻刻を、解説を付して研究成果報告書にまとめ、令和6年3月末に発行した。昭和53年(1978)に『広島県史 古代中世資料編』Ⅲが刊行されてから40年以上を経て厳島関係文書をまとまって紹介することができた。また、研究期間中に「大願寺文書」を用いて明らかにした成果については、次の学会において口頭発表した。 ①「近世における本願大願寺の活動」(2021年度広島史学研究会大会・日本史部会報告、令和3年10月31日)、②「厳島本願大願寺と毛利氏」(2023年度広島史学研究会大会・日本史部会報告、令和5年10月29日) 加えて、研究論文「大内氏支配下における厳島本願大願寺の活動」を『史学研究』に投稿した(『史学研究』319号に掲載予定)。
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