研究課題/領域番号 |
19K13344
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
吉村 雅美 (吉村雅美) 日本女子大学, 文学部, 准教授 (70726835)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 対外関係 / 儒学 / 洋学 / 対外認識 / 平戸藩 / 松浦家 / 近世近代移行期 |
研究実績の概要 |
(1)松浦静山による儒学の受容とその影響 平戸藩主松浦清(静山)による儒学受容について、平戸藩士への影響という視角から考察を進めた。具体的には、平戸藩校維新館関係史料(松浦史料博物館所蔵)および藩主静山や藩士が入門した皆川淇園の私塾弘道館に関係する史料の翻刻・分析を行った。そして、維新館役職者は学問の意義に関する「討論」を実施しており、弘道館では藩政や異国船政策に関する問答形式の議論(「合語」)が行われていたことを明らかにした。以上により、儒学の知識や「会読」「討論」という学習方法が、藩政や対外政策の議論に活用されていたことを解明した。その成果を「近世後期の藩校・私塾における学問と政治議論―維新館と弘道館を中心に―」(『考古学ジャーナル』752号、2021年3月)において公表した。 (2)松浦静山による書物受容 松浦静山が作成した書物目録「新増書目」(松浦史料博物館所蔵、全23冊)の全体像を把握するため、書名・作者や書物の部数等の基本情報をデータベース化する作業を開始した。次年度も入力作業を継続する予定である。 (3)松浦家の江戸における交際と学問 松浦史料博物館において史料調査を行い、松浦家江戸藩邸への来客に関する史料、松浦家奥向や幕臣・学者(林述齋・近藤重蔵・屋代弘賢ら)の詩歌を収録した史料などを閲覧した。これらは、松浦家が対外情報を入手した背景にあった、江戸の文化交流の具体像を示す史料である。今後、「蓮乗院日記類」(松浦史料博物館所蔵)による研究成果とも比較しながら、文化を通じた交際と対外情報入手の関係性について、分析を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度にはオランダに出張し、王立図書館(KB)において書籍・雑誌の調査を行う予定であったが、新型コロナウイルスの影響により、断念せざるを得なかった。また、2020年8月に長崎県平戸市において、谷村家文書(個人蔵)の整理および松浦史料博物館の史料調査を行う予定であったが、コロナウイルスのため前者は中止し、後者は2021年3月まで延期した。 史料調査の実施が遅れ、収集済みの史料を用いた分析やデータベース化を中心に研究を遂行したため、研究の進捗がやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
(1)海外史料を用いた研究方法の変更 2020年度・2021年度にオランダ王立図書館(KB)において欧文書籍・雑誌の調査を行う予定であったが、新型コロナウイルスの影響により、現地調査の目処が立たない状況である。2022年度に海外調査が可能であれば調査を行うが、難しい場合に備えて、東京大学史料編纂所において画像閲覧が可能なオランダ東インド会社日本関係文書(オランダ国立中央文書館所蔵)から、洋書・洋学関係の史料の収集を開始する。 (2)松浦静山による書物受容と書物理解 書物目録「新増書目」(全23冊)のデータベース化を継続する。書名・著者名等の基本情報を入力した後、書物の入手先や解釈・翻訳協力者の情報も追加し、書物がどのように理解・認識されたのか研究する。 (3)松浦家の江戸における交際と学問 松浦家の江戸藩邸における詩歌交換に関する史料(松浦史料博物館所蔵)について、分析を開始する。そして、詩歌を通じた交流に参加した人々の身分・属性の特徴を明らかにする。さらに、文化を等して交流を深めた人々と、松浦家所蔵書物の解釈・翻訳に携わった人々を比較し、文化的なネットワークが学問受容にどのような影響を与えたのか明らかにする。 (4)近世近代移行期における対外認識 1872年~1888年の「勤役日記調」(松浦史料博物館所蔵)の史料調査・分析を行い、旧平戸藩士の教育に関する記述を抽出する。そして、士族教育の内容や方法を近世の藩校・私塾と比較する。明治期、旧平戸藩士の一部は近世対外関係史の研究を行うとともに、対外進出論も提唱したが、本研究では対外認識形成の背景にあった学問・思想を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は海外調査(オランダ王立図書館の調査)を実施する予定であったが、新型コロナウイルスの影響により中止した。また、コロナウイルス流行のため、長崎県平戸市における史料調査も、予定より短期間で実施せざるを得なかった。したがって、次年度使用額が発生した。 次年度は、松浦史料博物館における史料調査が可能であれば史料撮影経費として、難しい場合は書籍購入費として使用予定である。
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