本課題は、米軍統治期(1945~1972)沖縄社会の実像を解明するために、とりわけ為政者側の政策形成・実施過程に焦点を当てて研究を進めるものである。特に経済政策分野について、米軍・米国・日本政府といった従来から注目されてきたアクターに加え、日米の民間企業などの動きに目配せすることで、沖縄戦後史像をより立体的に再構築することを目指してきた。 従来、米国の対沖経済政策の主目的は、住民の利害損得勘定に訴える経済的懐柔にあると考えられる傾向にあった。しかし、これを他の政策分野(労働・農業など)と総合してみると、それがより広範な沖縄社会の近代化というプロジェクトの一環だったことが見えてきた。ここでの近代化は、無色透明な普遍的「進歩」という装いのもと、西側資本主義陣営のメンバーにふさわしい価値観・行動規範の浸透を図るものであり、沖縄に限らず、他のアジア・アフリカ地域にも適用されてきた。社会構造から住民心性にまで及ぶ広範な意味合いを帯びており、その全容を解明するために労働・経済・財政だけではなく、民衆史・思想史まで包括した研究視角が求められる。そのための試行として、本年度は単著『ポスト島ぐるみの沖縄戦後史(仮)』のとりまとめに注力した。 本年度は沖縄から東京に移したことで、資料収集上の利点は失われたが、遠隔複写サービス等の利用により補った。 研究期間がコロナ禍と重なったこと、途中複数回研究活動拠点の移動があったため、当初よりも一年遅れての完了となったが、おおむね所期の目標を達成したものと考えている。
|