最終年度となる今年は、1900~10年代までの歴史研究者ネットワークに関する昨年度までの成果を踏まえ、改めてネットワーク形成の端緒をなした「地方史学会」三団体(奥羽史学会、北陸史談会、九州史談会)について、組織と活動実態の精査を行った。 調査の結果、三団体とも、会員構成では、旧制高校の教員層を指導者とし、会員の過半を旧制高校、師範学校の生徒が占める一方、旧藩士等、旧藩関係者を一定数含んでいること、地域構成では、仙台、金沢、熊本を中心としつつも、東北、北陸、九州という広域圏に幅広く会員を擁したことが判明した。この組織的特性をもとに、三団体は会員からの所蔵資料の提供や、史料の調査・収集(その過程では、各地の会員からの協力・便宜があった)、旧藩関係者などからの聞き取り調査などを活発に展開していたのである。 しかし、会員の中核をなした教員や生徒は、異動や卒業により、短期間で地域を移動する存在であり、それにより中核的会員を失った三団体は、いずれも短期間で活動終息を余儀なくされた。ただし、越佐史談会など他の地域に異動した教員層が異動先で「地方史学会」を設立したり、日本歴史地理学会の設立発起人に三名の九州史談会出身者が含まれていたように、三団体の経験は、その後の全国的な学会活動の中に生かされることになった。 ただし、旧藩関係者など、地域に根を張った会員たちは日本歴史地理学会など後発の学会に入会することはほとんどなかった。教員・学生など「移動する知識人」たちを中心に形成された歴史研究の人的ネットワークは、「歴史研究者」中心のネットワークとして展開していくことになったのである。 以上の成果を、昨年度までの成果と総合することで、1900~10年代における全国的歴史研究者ネットワークの形成過程と実態を解明するという本研究課題の目的はおおよそ達成することができた。
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