研究課題/領域番号 |
19K13350
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研究機関 | 佛教大学 |
研究代表者 |
飯田 隆夫 佛教大学, 総合研究所, 特別研究員 (80837261)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 初代市川団十郎願文 / 木太刀 / 牛王札 / 大山寺真名本縁起 / 春日局 / 知足院栄増 / 大山寺山法 / 遊民 |
研究実績の概要 |
課題(A) 御師の発生や組織化と密接に関係する本課題の令和1年(2019)度の実績は以下の内容である。調査対象のうちア)伊原青々園「初代団十郎願文」写本(早稲田大学演博)、歌舞伎文化博物館所蔵資料(令和2年2月山梨県西八代郡三郷町)、イ)川越市歴博所蔵木太刀の現物確認及びヒアリング(令和1年11月)、ウ)東御市大日堂所蔵木太刀群の現物確認及びヒアリング(令和1年9月)を実施した。エ)御師調査(大山・武州御岳山・三峰山)は、代わりに出羽三山御師である正伝坊の現地訪問及び資料閲覧(令和1年9月)を実施したが、他の御師に関して文献上の調査を行ったが、現地調査はしていない。 課題(B) 寛永期の徳川幕府の寺社造営と大山寺の祈祷寺院化に結びつく本課題の令和 1年度の実績は以下である。調査対象のうち、ア)大山寺真名本縁起は内閣文庫所蔵本・『続群書類聚』27下巻収録本、イ)慶長~貞享年間の寺社造営は『近世社寺建築調査報告書集成』(関東地方)・「江戸の都市と建築」(『江戸図屏風』別巻)・『古図にみる日本の建築』(弘文堂)を、ウ)大山寺掟・法度は、『伊勢原市史』資料編続大山を対象に基礎的資料の調査を行った。エ)元禄期以降の災害と幕府下賜金の課題は、ア)~ウ)が近世初期(秀忠・家光治世)に集中していたため未着手である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題(A) 項目イ)・ウ)は、事前に文献調査上で把握していたが、現地調査が未実施であったので現物確認と関係者のヒアリングを行い幾つかの地域資料を入手でき成果を得た。項目ア)は、歌舞伎文化資料館を訪問し初代市川団十郎関係の現地資料を調査した。文献資料では、主として加賀佳子「初代市川団十郎の願文」(『演劇研究』17)、伊原敏郎『市川団十郎の代々』(国会図書館蔵)その他の調査であるが、この調査を通じて初代市川団十郎が元禄3年までに「荒事」の名声を金平浄瑠璃の2代目和泉太夫の影響が大きいこと、初代団十郎は自らの技芸栄達は「両親、特に父(男伊達、侠客)」の恩が大きいこと、大山寺への木太刀はこれら技芸栄達と父母の恩に対し誓願したこと等を明らかにした。エ)は未達である。 課題(B) 項目ア)内閣文庫本「大山寺真名本縁起」は、寛永14年銘大山寺3世賢隆の写本で、同年代の縁起が他に3点確認された。項目イ)の検討から、家光治世、日光東照宮・芝東照宮・上野寛永寺等の一連の徳川家と天海にゆかりのある寺社造営が推移する中、寛永16年に大山寺へ1万両、美濃国南宮へ7千両、筑波山府内護摩所(知足院)へ1300両の造営資金が下賜されたが、この造営には地域資料から、春日局の働きかけを明らかであること探っている。ウ)大山寺掟・山法類からは、大山寺4世隆慶・6世開蔵の代を経るに従い檀那場の御師活動の規制から御師の統制強化へ進み、御師を「遊民」と規定していることなどを明らかにした。エ)の課題は未達である。 以上の理由から本課題の進捗は、「順調」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
1 課題(A)は、初代市川団十郎は誓願対象の一つに大山寺へ何故木太刀奉納を行ったのかの点と、大山寺と御師との関係性についてである。前者は、願文の背景として初代市川団十郎の家系を詳らかにすること、及び「荒事」に特徴づけられる演技がどのような背景から生まれたのかを究明することである。後者は、伊勢・大山の参詣が華美とされ慎むようにとの御触が出された慶安元年(『御触書寛保集成』49)以降、大山寺と山伏・御師との争論発生(寛文3年)、元禄15年の牛王札配札をめぐる御師・麓民間争論にかけて在地の動向を究明し、大山寺への木太刀奉納の発生を関連づける作業を進める。 2 課題(B)寛永年間、家光治世の時、徳川家ゆかりの寺社造営が広く行われた。この同時期、関東の鬼門に位置する筑波山中禅寺(知足院)も幕府の祈祷寺院として堂宇の造営がすすめられたが、この造営には知足院第2世光誉の幕府への働きかけが大きい。貞享3年(1648)大山寺第4世隆慶の「古実記」に、春日局が筑波山知足院第3世増栄を大山寺へ祈祷のため代参させたと記され、筑波山知足院の祈祷寺院化に次ぐ動きであることを示す。寛永16年大山寺造営に1万両が下賜されるが、この造営に春日局、知足院増栄、大山寺3世賢隆の真名本縁起写本などの関連性を今後究明する。 3 課題(A)・(B)は以上であるが、これらと並行して第4世隆慶の山法(御師活動規定)、第6世開蔵の山法(大山寺・御師の師資関係規定、御師身分定義(=「遊民」)に至る御師の役割と身分的地位の検討を推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
A H31(令和元)年「その他の明細」費用として大山寺本堂天井裏木太刀撮影用30万円を計上したが、天井裏の木太刀は6m40cmと現存遺物の木太刀としては最長でかつ本堂天井裏に保管されている状態である。銘文を実際に確かめるとなると、1)本堂天井裏に登り、その場で包装を剥し撮影する方法か、2)木太刀本体を天井裏から取り外し、地上に安置して外装をほどくのどちらかであった。1)・2)の作業は、住職への許可と宮大工または建築業者協力への協力を必要とした。当初に想定していた以上の作業規模と経費が予測されたためこの作業は他の方法を講じることで断念した。 B 山岳参詣地寺社調査の一環で伊豆山神社・箱根神社の探訪として旅費経費を計上したがこの課題は、時間的余裕がなく未実施である。 C Aの未実施計上経費は、H32(令和2)年で文献調査関連費用及び複写費として、Bの未実施計上経費は、H32(令和2)年度への繰り越し費用として計上する。
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