令和5年度(若手研究5年目)には、研究課題「朝鮮通信使迎送体制と商人請負制の展開」に関する成果発表として、5月に第49回(2023年度)交通史学会大会自由論題報告にて「近世中期における鞍置馬・鞍皆具派遣役人の旅支度―正徳・享保期の弘前藩津軽家の事例を中心に―」と題して口頭発表を行った。 以前、交通史学会例会や歴史資料学研究会で口頭発表した弘前藩津軽家の乗馬役の研究事例を、現地で役負担を遂行する弘前藩士の立場からまとめ直したものである。これらの研究分析において、鞍皆具派遣の場合は、準備段階から留守居組合を結成し情報収集を徹底したほか、大名家同士の協力体制が現地行動にも及ぶことが明らかになった。報告後の意見交換においては、宇都宮大学准教授髙山慶子氏や交通史学会会員から引用史料や留守居組合の機能等についてご助言を賜った。 また9月の第55回(2023年度)日本古文書学会大会においては、九州大学名誉教授佐伯弘次氏と東京大学名誉教授村井章介氏の講演、及び対馬博物館等の展示見学を通して、対馬の中世文書や朝鮮使節に関して知見を広め情報収集したほか、長崎県対馬歴史研究センターでの『対馬宗家文書』の史料調査について、学芸員山口華代氏と研究打ち合わせを行った。11月には同センターにて史料調査を実施し、「宝暦信使記録八十三」ほか7点の冊子形態の史料を閲覧・撮影した。 現在、弘前藩津軽家の乗馬役の研究事例を中心に、研究成果をまとめている最中であり、正徳・享保期の場合、諸々先例をもとに役負担を遂行したこと、また金銭的負担の増大していく様子が確認された。今後、延享・宝暦期についても分析していくが、加賀藩、盛岡藩、弘前藩のいずれを見ても宝暦期の関連史料の少ないことから、対馬藩請負制の影響と考えられ、史料解読・実態解明を進めながら論文化していく予定である。
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