古代アッシリアの王たちは自らの功績を詳細に記録した数多くの「王碑文」を後の世に残した。現在では、先行研究によって、アッシリア王碑文が正確な歴史記録ではなく、イデオロギーに基づいて作成されていることが明らかになっている。それゆえ、楔形文字学を専門とする研究者は、王碑文を歴史研究に使用する際には細心の注意を払っている。しかしながら、地上における神アッシュルの代理人であるアッシリア王の表象に用いられた技術のすべてが解明されたわけではないため、依然として研究者に歴史的事実として受け入れられている誇張された王の功績も多数存在する。このような状況を踏まえて、研究代表者は、王碑文を作成した書記たちが「偉大な王」の表象に用いた技術を体系的に明らかにすることを目的とした調査を行った。また、この調査に加えて、アッシリア王碑文のオーディエンスに関する問題にも取り組み、特に、これまで先行研究において深く議論されてこなかった一般住民を対象とした王碑文の「読み聞かせ」について重点的に考察した。 最終年度は、王碑文に記された「数」に焦点を当てた調査を行った。調査の結果、貢物や略奪品の数、あるいは捕虜や捕囚民の数が少なかった場合には、書記が王の功績を損なわないように意図的に数字を記載しなかったことが判明した。ほか、過去数年にわたる調査結果をシュメール研究会で報告した。今後は、2024年の3月末までに本研究プロジェクトの成果を英語でまとめ、ドイツの出版社(Zaphonを予定)に提出することを計画している。
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