研究課題/領域番号 |
19K13363
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
宮本 隆史 東京大学, 文書館, 特任助教 (20755508)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 監獄 / アーカイブ / 歴史認識 / 歴史叙述 |
研究実績の概要 |
2019年度は、19世紀半ばを中心に、英領インドと日本の監獄運営に関係する資料を分析する作業を行なった。英領インドに関しては、ベンガル管区、北西州、パンジャーブなど主に北インドにおける、監獄規則(Jail Manual)の比較を行ない、相互参照関係を文献学的に解明する作業を行なった。さらに、1864年インド監獄委員会、1877年インド監獄会議という、英領インド全体の監獄関係官僚たちが集合した委員会・会議における議論を観察することで、相互の情報交換のありかたとともに、州ごとの環境の違いに起因する制度についての解釈の違いを考察した。 19世紀後半は、国際的にも監獄に関する情報が相互交換される枠組みが形成されていった時代であった。英領インドの監獄関係官僚として有名であったフレドリック・ムアットは、1872年に開催された世界監獄会議に参加しており、植民地インドにおける経験と知識をもとに、各国の代表者たちとの情報交換をおこなっている。さらに、この会議だけではなく、ムアットは王立統計学会誌をはじめとする雑誌上に精力的に監獄に関する報告や論文を発表している。19世紀半ばの英領インドにおける監獄報告書の書式整備が、いかにこうした情報交換の基盤となっていたかを分析した。 明治日本については、日本初の監獄規則として知られる小原重哉による『監獄則並図式』を、彼が1871年に訪問したシンガポールの当時の流刑監獄の規則と比較し、その影響関係を検討した。さらに、『監獄協会雑誌』上に表われる国際監獄会議等の情報の傾向を分析することで、明治初期の監獄関係官僚たちが、いかに情報の取捨選択を行なっていたかを分析した。また、福岡県大牟田市の三池集治監における、囚人労働者に関する歴史認識が、三池炭鉱を中心とする大牟田・荒尾地域でいかに形成されてきたかを、市民団体や公共図書館への資料の集積という観点から考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定どおり、近代アジアの英領植民地であったインド亜大陸と海峡植民地(ペナン、シンガポール、マラッカ)、そして日本帝国における監獄を対象とした研究に必要な文献調査を行なった。 監獄関係のアーカイブのネットワークが形成された過程の解明という本研究のひとつめの目的のために、1830-70年代の北インドの英領インド直轄領域と海峡植民地そして明治初期の日本の監獄関係資料にみられる参照関係を分析した。具体的作業として、英領インドの北西州の監獄関係資料のテキストデータ化を、アルバイト作業者を雇用することで大幅に進めることができた。この作業のためのデータ形式と手順を固めることができたため、2020年度も同様に継続する予定である。日本の監獄関係資料については、国立公文書館、国立国会図書館の資料を中心に、明治期の資料の文献調査を進めた。 本研究のもうひとつの目的である、歴史叙述の比較分析については、英領インドについてはインド帝国地誌や監獄報告書などに記述される歴史的叙述の内容分析を中心に行なった。また、2020年度以降に分析を深める予定の、投獄された人物による手記といった資料の収集も開始している。日本の監獄については、地域社会で形成された記憶に関連する資料として、大牟田市立図書館が所蔵する三池集治監関係資料の集積と歴史叙述について分析を進めることができた。 成果としては、4つの学会報告で研究内容の発表を行なった。また、初年度の成果をまとめる学術論文を執筆中である。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、引き続き資料収集をおこないその分析を進める。Covid-19の影響のため海外に渡航しての文献調査が困難となる可能性があるため、文書館等が提供するオンライン複写サービスなどを活用して資料収集を進める。 英領インドの監獄に関しては、2019年度で主な対象とした時期に続く、1880年代から19世紀末までの展開について資料の分析を行なう。同時に、状況が許すようであれば、インドに渡航して現地における監獄についての歴史認識に関する調査を行なう。これまでの先行研究ではアンダマーン流刑地についての分析が行なわれているが、コルカタのアリープル監獄やデリーのティハール監獄など、主要な監獄についての歴史認識がいかに形成されたかを考察する予定である。ただし、現在インドへは渡航できない状況であるため、現地調査が不可能である場合には、オンラインで資料を取り寄せるなどして文献を用いた分析を行ない、現地調査は2021年度以降に行なう。 日本の監獄に関しては、初年度は刊行物と三池集治監関係の資料を中心に分析を行なった。2020年度は、これに加えて宮城集治監関係の資料の収集と分析をはじめる予定である。加えて、仙台における集治監の記憶がいかに集積され、歴史叙述が行なわれてきたのかを調査する。これによって、三池集治監のあった大牟田・荒尾地域との歴史叙述の比較検討を行なう。 さらに、英領植民地と日本帝国における監獄の歴史経験が、世界監獄会議やその他の国際的な実務者の情報交換にいかに関わるかを関連づけて考察する。 2020年度は、Covid-19の影響により海外の学会等への参加が困難となる可能性があるため、学術論文の執筆により重心を置いて成果の発表を行なう予定である。
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