研究課題/領域番号 |
19K13364
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
野口 舞子 東京大学, 東洋文化研究所, 特別研究員 (00834623)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ベルベル / イスラーム化 / アラブ化 / マグリブ / アンダルス |
研究実績の概要 |
本年度は、マグリブ地域の先住民であるベルベル人の歴史、文化について概説したジャン・セルヴィエ著『ベルベル人 : 歴史・思想・文明』の翻訳と公刊準備に多くを充てた。この過程で、ベルベル人の言語、歴史や文化芸術に関する知識が深まった一方で、マグリブ地域やベルベル人に関する包括的な概説書刊行の必要性を強く感じた。 加えて、本年度も引き続きイブン・ハルドゥーン(1406年没)の史書『省察すべき実例の書』を用いた講読会を開催し、マグリブに移住したアラブ諸部族や、先住のベルベル諸部族について、各部族の系譜や来歴、居住地など様々な点について検討を行った。その中で、著者のベルベル人観に関するデータを蓄積することもできた。高名な著者によるこうした考えは、その後の歴史家や現代の人々に継承されている可能性が強く、今後、これらの分析を論文として公刊する準備を進める。 他方で、マグリブ地域のアラビア語の使用状況とイスラーム化の状況を明らかにする上で鍵となるのが、イスラーム説教(フトバ)である。文献史料におけるフトバに関する記述の収集・分析を行い、フトバが行われた状況や説教師、政治的・社会的背景を検討したほか、知識人伝記集を用い、説教師の修学状況やキャリアパターンのデータを蓄積した。そして、12世紀の西方イスラーム世界における説教研究の動向や課題をスペイン史学会第187回定例研究会で報告した。この他、ムラービト朝(1061年頃-1147年)のイスラーム化の状況の一端を明らかにする即位儀礼について既に公表した「ムラービト朝におけるバイアの変遷と統治の正当化」『東洋学報』(96巻4号)を加筆修正の後、英訳し発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
イブン・ハルドゥーンの『省察すべき実例の書』の文献講読を順調に進められたことに加え、ジャン・セルヴィエ著『ベルベル人 : 歴史・思想・文明』の翻訳を公刊できたため。特に、後者はベルベル人の歴史や文化、思想などを幅広く論じた文献であり、翻訳の過程で様々な研究や文献に当たる必要性があり、マグリブ地域や同地の住民に関する新しい知見を多く得ることができ、当初の予定以上に研究の進展がみられた。 他方で、本年度予定していた海外調査が実施できなかったため、史資料文献の収集を十分行うことができずやや遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き史資料の分析を進めるとともに、これまで蓄積したデータを整理して学会報告を行うほか、論文として公刊する準備を進める。 また、これまで実施することができていないアルジェリアやチュジニアでの現地調査を行い、史資料収集を行う。他方で、今後もこれららの地域で現地調査が難しい場合を想定し、オンラインで研究者と意見交換を行うほか、史資料があることが確認できていて、比較的調査がしやすい国(スペイン、モロッコなど)に調査地を変更にすることも検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度も予定していた海外調査を行うことができなかったため。次年度も可能な限り海外調査の実施を模索するが、難しい場合は、オンラインでの史資料入手に努める。また、海外の研究者を招聘することも検討する。
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