研究課題
本年度も新型コロナウイルス感染症の拡大によって海外渡航が制限されたため、当初予定していた韓国の図書館・研究機関での調査が叶わなかった。そのため、日本各地に所蔵されている朝鮮古文書の調査研究を推進した。特に壬辰戦争(文禄・慶長の役、壬辰倭乱)において、加藤清正の捕虜となった朝鮮王子(臨海君・順和君)とその従臣らが、日本の武将や僧侶に与えた墨跡(書簡・詩文)について検討を加えた。本研究の遂行とあわせて、「壬辰戦争研究会」を組織し、数度にわたって研究会を開催してきたが、その成果は、川西裕也・中尾道子・木村拓編『壬辰戦争と東アジア―秀吉の対外侵攻の衝撃―』(東京大学出版会、2023年)として結実した。本書の第一章「朝鮮王子一行とその墨跡」では、朝鮮王子一行の墨跡14点を悉皆的に取りあげ、その内容と作成背景を考察した。①朝鮮前期(14~16世紀)における王子関連の墨跡はほとんど現存していないが、本稿で取りあげた墨跡の中には、王子の親筆かつ花押が記されているものがあり、その史料的価値が高い。②朝鮮王子一行が作成した書簡は、朝鮮の官文書をアレンジした特異な様式を有しており、古文書研究の観点からみて興味深い事例である。③各墨跡が作成された背景や要因を分析することにより、捕虜期間中における朝鮮王子一行の動向を明らかにすることができた。本研究の成果は、壬辰戦争の実態の解明にも寄与するところが大きいと思われる。なお、朝鮮王子一行の墨跡については、2022年度九州史学研究会大会シンポジウム「壬辰戦争の史料論」(2022年10月)でも中間報告を行った。
3: やや遅れている
前年度に引きつづき、新型コロナウイルス感染症が終息しなかったため、当初予定していた韓国での調査を行うことができなかった。
今年度には新型コロナウイルス感染症の終息が予想されるため、韓国の図書館・研究機関において調査を行い、朝鮮古文書の様式に関する研究を遂行する予定である。
新型コロナウイルス感染症の拡大にともない、研究期間を延長したため、次年度使用額が生じた。次年度使用額は調査旅費や物品購入に使用する予定である。
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