本研究は朝鮮王朝から明および清に派遣された外交使節である朝鮮燕行使に対する基礎的研究である。特に、16世紀末から17世紀初めにかけての朝明間の外交文書集である『吏文謄録』を利用して朝鮮燕行使の実態解明を目指した。『吏文謄録』は現存14冊の史料であり、朝明関係の実態に迫りうる重要史料といえるが、これまでその概要が紹介されることはなかった。本研究の実施期間中に『吏文謄録』を利用した研究が韓国で発表されはじめ、その基礎研究の必要性はより一層たかまった。本研究では、この『吏文謄録』所収の外交文書の目録を作成するとともに、もととなった文書の作成や利用、『吏文謄録』の編纂とその伝来についても多角的に考察した。また『吏文謄録』と同様に、朝鮮王朝の公的記録として継続的に作成された「朝鮮王朝実録」や「承政院日記」といった年代記史料の稿本やその写本についても収集・分析を行いった。このことによって、『吏文謄録』という史料の基礎的性格をより鮮明にとらえることが可能になるとともに、王朝の公文書の編纂体制やその保存状況についても新たな展望を開くことができた。また『吏文謄録』と関係が深いとみられた外交文書集についても検討を加え、それらの関係性についても一定の見通しを得ることができた。外交文書集を利用した朝明間の具体的な外交関係のあり様についても考察を進めることができ、今後の研究方法についても一つの指針を示すことができたと考える。
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