研究課題/領域番号 |
19K13379
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研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
塩野崎 信也 龍谷大学, 文学部, 講師 (70801421)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アゼルバイジャン / コーカサス / ロシア帝国 / 裁判制度 / ペルシア語文化圏 |
研究実績の概要 |
2019年度は、8月から9月にかけて、イラン・イスラム共和国とアゼルバイジャン共和国における現地調査を行った。主に現地の図書館や書店をめぐり、最新の研究状況を把握するとともに、貴重な資料もいくつか入手することができた。特に、イランのテヘラン大学図書館において、『四書』と呼ばれる作品の写本の画像データを入手したことは、大きな成果である。時期的な問題で、そのデータを活かすことはできなかったが、『龍谷史壇』149号に、「『四書』バクー本にみるイスラーム「写本」文化の一様相」という論考を発表した。これは、既に入手済みであった『四書』の4写本の比較を通じて、ペルシア語文化の南東コーカサスにおける役割を考察したもので、本研究のテーマである「イラン性」の交流と衰退についての知見を与えるものである。 また、『龍谷大学論集』494号にて、論考「ロシア帝政期南東コーカサスの村落住民」を公表した。これは、すでに手許にあった文書のデータを分析して、南東コーカサスの村落住民の生涯を明らかにしたものである。そこから、当時の村落住民に残存していたイラン性についても、考察した。 2月には別件でアゼルバイジャン共和国バクー市に2週間ほどの出張をしたが、その際に、本研究に関わる史料・参考文献も複数入手することができた。特に本研究の骨子となる文書史料のデータを入手できたことは大きい。3月にはドイツ連邦フランクフルト市の国立図書館において文献調査を行う予定であったが、新型コロナの流行に伴い、急遽中止した。 その後、あらたに入手した文書史料などを中心に整理・分析を進め、ロシア帝政期南東コーカサスの裁判制度、裁判の実態などに関する実証研究を進めた。 2月には、これらの成果にも基づいた一般向けの市民講座「民族・帝国・アゼルバイジャン」(於:GACCOH)も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画通り、2019年度には、既に手許にある史料の分析に基づく研究を進め、その成果として2本の論文を発表し、一般向けの講座も行うことができた。現地調査に基づく新史料の調達も、おおむね順調に進んだ。今後3年間の研究の土台を作ることができたと言える。研究補佐員の手も借りて、史料の整理も順調に進んでおり、今後の研究をスムーズに進展させることができるだろう。 先述の通り、3月に予定していたドイツ連邦における資料調査はかなわなかったが、ここで入手予定だった資料は、現在進行中の研究とは直接関わらないものであり、この資料を用いた研究を2021年度あるいは2022年度にまわし、今年度は別の研究を先に行うことで、対応可能である。 以上、予定外のことはあったものの、全体の進捗状況としてはおおむね順調であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は新型コロナの影響もあり、予定していた海外での文献調査は困難であると思われる。状況が好転する可能性も考えつつ準備を進めていくが、海外調査が行えないことを前提に計画を立てていく方針である。基本的に、本研究課題採択以前から所有していた史料や、2019年度の海外調査で入手した史料の分析を行う研究を進めていく予定である。実際、先述の通り、ロシア帝政期南東コーカサスの裁判制度とその実態を分析する研究が現在進展中であり、本年秋頃には論文として成果が出る予定である。それに先だって、口頭での研究発表も行う予定である。これは離婚裁判に関する研究であり、申請時に示した研究目的の(A-1)婚姻制度の運用の実態解明、(A-2)裁判制度の運用実態の解明に該当する。 また、南東コーカサスで書かれたペルシア語写本史料の分析を行う研究も進めていく。研究目的の(B)文化の面での「イラン性」の保存、あるいは「非イラン化」に関する研究である。 状況が好転し、海外出張が可能になった場合には、2月から3月にかけてアゼルバイジャン共和国(バクー市)、ロシア連邦(サンクトペテルブルク市、モスクワ市)への出張を行う。その際は、主に文書史料の収集を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
3月に予定していたドイツ連邦への出張を中止したため。今年度以降の海外出張の日程を拡張し、訪問先や期間を増やす予定である。それで対応できない分は、資料の購入にあてる。
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