最終年度である2023年度には、8月から9月にかけて2週間のアゼルバイジャン共和国における文献調査を実施した。まず国立歴史文書館において文書史料の調査を行い、2022年度にトラブルにより閲覧することができなかった19世紀の宗教共同体と裁判制度に関する文書を閲覧した。並行して写本研究所にて文献調査を行い、19世紀に活躍した思想家アーフンドザーデの著作の写本を複数閲覧、写真データを取得した。 帰国後、アーフンドザーデの著作の1つであり、当時のペルシア語年代記の叙述方法を厳しく糾弾した『批判の書』に関する論文を執筆し、これは既に投稿し、受理されている。また、2024年3月には、前年度に引き続き「第22回中央アジア古文書研究セミナー」の講師を務め、夏の調査の成果の一部を披露するとともに、19世紀の南東コーカサスで書かれた古アゼルバイジャン語の文書を読解するための技術を他の研究者に伝えた。また、この研究を通じて得た一部の知見を還元する形で『中央ユーラシア文化事典』の複数の項目を執筆していたが、本書が本年度出版された。 研究期間全体を通じて、8本の論文(1本は印刷中)を執筆し、口頭発表の類は3回行った。口頭発表が少なめなことには、新型コロナ禍が影響している。同じ理由で研究期間を延長することとなり、また、海外における文献調査を前提とする研究であるだけに、それが不可能であった期間には予定通りに研究が進まないこともあった。一方で、最終的な研究実績としては、当初の予定通り、写本研究、村落に関する社会史研究および人口史研究、都市社会に関する政治史研究、離婚裁判に関する文書史料に基づいた研究など、多彩な研究を遂行することができた。また、本研究の過程で取得した史料をもととした新たな研究を現在、複数準備中である。
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