本研究開始時においては、古代ローマ時代以降に書かれた著作の中でフォーマル・ガーデンがどのように扱われてきたのかを検討し、その庭園形式の広がりの過程を明らかにする予定であった。しかし、COVID-19の影響で予定していた調査を2020-2021年度に行うことができなかった。そのため新しく文献を探すことは断念し、古代ローマ時代の庭園記述の再検証を行った。その結果、ギリシア哲学が古代ローマの庭園空間に影響を与えていたという新たな観点を見出すことができた。最終年度においては、この新知見について検討を進めつつ、当初の計画通りの史料調査を行った。 研究期間全体を通じて得られた成果は大きく分けて二点ある。 ①後世に書かれた庭園に関する書籍の内、最初期のものにおいては、古代ローマ時代の著作が農地経営や農業の観点で使われていたが、フォーマル・ガーデンを作るための情報源として使われていなかった。例えばトマス・ヒルが1563年に出版し英国で広く流通した最古のガーデニング本では、植物を育てる際の注意点を語るために古代ローマの農業書などを使っているにすぎない。また、本書では木々を刈り込んで作られた迷路の挿絵が登場するが、フォーマル・ガーデンの形成に重要な要素である庭木を刈り込んで様々な形にするという小プリニウスの逸話やその技術そのものについて、古代の著作に依拠していない。それゆえ、木々を刈り込んでフォーマル・ガーデンを作ることの方が先行しており、古代の著作との関連付けは後付けの可能性が高いと理解できた。 ②古代ローマ時代の庭園記述を再検討した結果、古代ローマの別荘建築において古代ギリシアの哲学学校とその周辺のランドスケープを反映させた空間が作られていたことが明らかになった。最終年度においては、ギリシアからイタリア半島へ移動してきた知識人が庭園空間周辺の形成に寄与したのではないかとの仮説を立て、検証した。
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