研究課題
本研究は、これまで二国間の枠組みで分析される傾向にあった13世紀前半のビザンツ皇帝ヨアンネス3世と諸外国との外交政策を多角的に分析することで、個別の外交政策の意図や歴史的意義を、ヨアンネス3世の外交戦略一般のなかに位置づけるものである。最終年度となる2022年度は、従来から進めていた対セルジューク朝関係および対教皇庁関係についての論考が刊行された。また、ニケーア(ニカイア)と正統なビザンツ政権の座を争ったエピロス(エペイロス)の政権との関係について、名目上ではあるものの後者の前者への従属が決定された和約が、近年定説となりつつある1241年ではなく、旧説である1242年であることを、根拠となるアクロポリテス『歴史』の歴史学的・文献学的分析およびユーラシア規模での政治史的コンテクストの分析から明らかにする発表を、2023年3月の日本ビザンツ学会大会にて行った。ここでの内容と発表の場で得られた議論をもとに、論文を現在執筆中である。また、13世紀ビザンツとモンゴルの関係を通覧する発表を2022年11月に西洋史研究会大会の共通論題にて発表した。本研究期間の全体を通じて、ニケーア(ニカイア)帝国のとりわけヨアンネス3世バタツェス治世(1221-1254年)における、亡命ビザンツ政権の外交のありようを、複雑な網の目の中で展開される多数のアクターのやり取りのなかに位置づけることを目指しつつ分析してきた。ホーエンシュタウフェンのフリードリヒ2世、教皇庁、エピロス(エペイロス)、セルジュークなどとの外交交渉から見えてくるのは、いずれの背後にも、とくにモンゴル帝国の伸張を背景としたユーラシア規模での政治的変化が個別の交渉に影響を及ぼしていた事実である。本研究においては、それを仮説的・部分的に示し得たと考えるが、今後は得られた成果を補いつつ統合することが課題として残される。
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