研究課題/領域番号 |
19K13392
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
福山 佑子 早稲田大学, 国際学術院, 准教授 (40633425)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 古代ローマ / ローマ皇帝 / 記憶 |
研究実績の概要 |
今年度は、主に過去としての古代ローマの記憶についての研究成果を得ることができた。まず、周藤芳幸(編)『古代地中海世界と文化的記憶』山川出版社、2022年に収録された「アインジーデルン碑文集成と中世における古代ローマ碑文の記憶」は、本研究課題で検討する碑文が収録されている中世の碑文集成に着目した研究成果である。古代ローマの碑文は後の時代に破壊や撤去などにより現物が失われることも多く、中世から近世にかけての書き起こししか残されていないものも多い。アインジーデルン碑文集成には、「暴君」とされたドミティアヌスの死後に、元老院と人民が自由の回復を記念して寝るかに捧げた碑文、同じく「暴君」とされたコンモドゥスの墓碑、マルクス・アウレリウスとコンモドゥスのローマ入市税について碑文2点においてコンモドゥス名の名前の削除の有無に違いがあるという事例が収録されているが、いずれの碑文も現存しない。これらの碑文の背景を検討する研究の一環として、中世にローマを訪問した修道士が古代ローマ時代の碑文にいかなる記憶を期待したのかという問題を、収録された碑文の性質から分析した。また、今年度はヘロディアヌスとカッシウス・ディオの作品を中心に研究を行い、3世紀において過去の「危機」がいかに説明されているかについて検討したが、その副産物として、ルネサンス期におけるカッシウス・ディオ作品のラテン語訳とその伝播について、「15-16世紀イタリアにおけるウェスウィウス山噴火の記憶:ジョルジョ・メルラと古代への関心」と題した論文を刊行した。この研究成果も、後代における古代ローマの記憶を扱ったものである。本題である古代ローマにおける「危機」の記憶を扱った研究成果よりも、その一環としての研究成果の刊行が先となってしまったが、3世紀初頭の歴史書における叙述の分析の成果についても纏まりつつあり、着実に研究は進展している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の4年目にあたる2022年度には、研究報告1本、論文2本を刊行することができた。また、2020年度に刊行した書籍『ダムナティオ・メモリアエ-作り変えられたローマ皇帝の記憶-』について、新たに1つの学術雑誌で専門の近い研究者による書評を得ることができた。研究成果は本研究の副産物ともいえるものが中心となったが、その一方でヘロディアヌスとカッシウス・ディオの作品の精読を進め、これらの作品において皇帝や過去の「危機」にかんする出来事がいかに記述されているかについて検討を行った。その成果については、次年度以降に研究成果にまとめる予定である。 当初の研究計画に記載していた海外調査や海外での学会発表は、今年度も新型コロナウイルスの影響で見送ることになったが、所属大学での活動の一環として3月に2週間のワシントン大学滞在の機会を得ることができ、ワシントン大学古典学科の研究者たちとの意見交換や、The 52th annual meeting of the Classical Association of the Pacific Northwestに参加することができた。特に、古代ローマにおける記憶の用い方を長年研究している研究者と意見交換をすることで、本研究における叙述史料の重要性を確認することができたことから、最終年度にあたる次年度の方針を明確にすることができた。 また、今年度は国内の研究者との対面での意見交換も可能となり、その一方でオンラインを通じた海外の研究者との交流も続けられている。最終年度は、所属大学で特別研究期間を得ることができ、イタリアで在外研究をする予定となっていることから、この機会にイタリアの研究者との対面での意見交換や研究会参加をする計画でもある。海外での研究活動が徐々に可能になってきたこともあり、概ね順調に研究は進展している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は当初2022年度までの予定であったが、新型コロナウイルスの影響により海外での調査ができなくなった期間があったこと、また2023年度に在外研究の機会を得られる見通しとなり、海外での調査を踏まえた上で本研究を締めくくりたいと考えたことから、1年間の研究期間延長を申請し、承認された。 最終年度にあたる2023年度は、4月から6月までイタリアのフィレンツェ大学での研究滞在を予定しており、フィレンツェ大学のBiblioteca Umanistica、フィレンツェ国立図書館において文献調査を行うほか、ここで入手できなかったものについては、ローマでもBiblioteca di Archeologia e Storia dell'ArteやIstituto Archeologico Germanicoなどを利用する予定である。また、これまで共同研究をした研究者や、研究関心の近いイタリアの研究者とも直接会って意見交換をし、大学や研究所で開催されるセミナーにも参加する予定となっている。 2022年3月にワシントン大学で専門分野の近い研究者と行った意見交換を踏まえ、本年度はこれまでに行ったヘロディアヌスとカッシウス・ディオの作品の分析を中心に、それを碑文などの周辺史料で補いながら、研究成果を纏めていく。特に彼らの作品は3世紀初めに書かれたものであることから、1-2世紀に生じた危機が数十年後の時代にいかに記憶され、それまでの歴史叙述といかなる違いが存在するのかという点を明らかにすることから、本研究の最終的な成果を得たいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響により海外渡航ができなかったため、次年度使用額が生じた。翌年度は主に海外滞在時を含めた文献購入費、学会参加や研究のための渡航費にあてる予定である。
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