研究課題/領域番号 |
19K13395
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
岸本 廣大 同志社大学, 文学部, 助教 (20823305)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 古代ギリシア史 / ヘレニズム / 演説 / メガラ / ポリュビオス |
研究実績の概要 |
古代ギリシア世界における共同体の関係構築のみならず、その断絶やそれを正当化する言説に注目し、当時の人々の言動を規定していた外交文化を明らかにすることが、研究の大きな目的である。 今年度は、昨年度に引き続きメガラというポリスに着目し、それに関する先行研究や史料の収集、読解に努めた。特に、アテナイのBritish School at Athensでの文献調査ではメガラ市の最新の発掘報告を含む8本の論説が掲載された論文集を通じて、最新の知見を得るとともに、「断絶」という本研究の観点の独自性を確認できた。また、合わせてメガラを訪問し、博物館や現地の遺跡を確認した。 以上のメガラの調査と並行して、当時の外交における言説を分析するために、ギリシア人使節の演説についても研究を進めた。先行研究の調査から、使節の演説が近年注目されていることを確認したうえで、ポリュビオスの『歴史』に残された、ヘレニズム時代のギリシア人使節の演説を分析した。 その成果は、「ヘレニズム時代の使節演説にみる過去の記憶」という題目で、2019年度西洋史研究会大会(立教大学、2019年11月16日)において報告した。結論として、分析した演説にはギリシア人意識や共通の過去がみられ、それが使節演説を通して再生産あるいは変容しえたことを論じた。その際に、実際の断交に至らないような、使節による相手の非難なども広義の「断絶」とみなせることに気づくことができたのは、大きな収穫であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度であった昨年度は史資料の収集に努め、ギリシアでの文献調査や現地調査を行い、一定の成果を挙げることができた。ただし、ヘレニズム時代のメガラ、特に「断絶」については史料が想定していたよりも限られていることもだんだんとわかってきた。 一方、ヘレニズム時代の使節演説ついての研究は順調に進展している。昨年度は最近の研究動向を整理し、それに基づいた研究報告を行ない、一定の結論に達した。 それに伴い、外交関係の断絶といった極端な「断絶」だけでなく、使節演説における相手の非難なども「断絶」に至る言動とみなすことで、「断絶」の事例の対象を広げることが可能になるという事にも気づくことができた。それによって、ヘレニズム時代のメガラの史料不足という状況に対応できると考える。
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今後の研究の推進方策 |
2年目にあたる今年度は、主に古典期の史資料の収集と分析に努める。文献資料ではトゥキュディデスを軸に、前4世紀についてはアテナイの法廷弁論などにも分析範囲を広げる。その際、メガラの事例のみならず、使節演説やそこで展開される言動にも注目し、広義の「断絶」の事例まで分析対象に含める。 また、碑文資料でもメガラのみならず、、文献資料からペロポンネソス戦争で外交の「断絶」がみられる共同体を中心に、実際の外交関係や使節の動きなどの分析を勧めたい。 以上の研究によって、昨年度の研究で部分的に明らかとなったヘレニズム時代の状況と比較しうる、古典期の状況を明らかにし、最終年度における両者の比較の下準備としたい。 ただし、コロナ禍の影響で海外での調査や研究者の招聘交渉は難しくなっている。そのことも踏まえ、代わりに国内での学会報告や論文投稿に注力して、研究を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
3月に予定していた海外での調査を、コロナの影響で断念したこととが、一番の理由である。その影響が長引き、今年度も海外での調査の実施が難しい可能性があることから、それに代わって今年度は国内での研究報告や論文投稿に注力する。次年度使用額は、そのための書籍などの購入に主に充てる計画である。また今年度の学会がリモートで行われる可能性が高いことから、そのための環境整備(マイクやWebカメラなど)の購入も視野に入れる。
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