研究課題/領域番号 |
19K13395
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
岸本 廣大 同志社大学, 文学部, 助教 (20823305)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ギリシア / ヘレニズム / ローマ / メガラ / 外交 / 連邦 / 演説 |
研究実績の概要 |
「断絶」に着目して、古代ギリシア世界の外交文化を明らかにすることが本研究の大きな目的である。 昨年度は、実際の断交に至らないような、使節による相手の非難なども広義の「断絶」とみなして論じることができるという視点を獲得した。そこで、当初想定していたメガラから対象を拡大し、主にヘレニズム時代の外交使節による言説の分析を、ポリュビオスの『歴史』を用いて進めた。 その成果の一部は、本年度に「使節の演説における過去の語り――ポリュビオス『歴史』を手がかりに」という論文として刊行された(中井義明・堀井優(編)『記憶と慣行の西洋古代史』ミネルヴァ書房、2021年3月、125-146頁)。 また本年度は、ローマ支配下のギリシアにおける地方の共同体とローマ中央との交渉をも「外交」と捉え、分析を進めた。その成果は、「ローマ支配下におけるギリシア本土の連邦(コイノン)――アカイアとボイオティアを事例として――」という題目で、第88回西洋史読書会大会(京都大学(オンライン開催)、2020年11月3日)に報告した。結果として、ギリシア本土のボイオティア地方やペロポンネソス半島では、それ以前の政治体制(ポリスや連邦)がローマの支配という状況に適応する形で維持されていたことを確認した。そのうえで、当時ローマとの「外交」を担当したローカル・エリートがそうした政治体制を通じて名誉を高めると同時に、自身にとって都合の良い過去とのつながりを強調していたことを明らかにした。 加えて、本研究を含め、これまでの自身の研究を総括した著書『古代ギリシアの連邦――ポリスを超えた共同体』(京都大学学術出版会、2021年)を刊行した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は古典期の外交について研究する予定だったが、ローマ時代のギリシアに関する最新の研究に触れ、前年度との連続性も踏まえて方針を転換し、計画にはなかったローマ支配下のギリシアに関する「外交」を研究した。それによって新しい知見を得られたが、結果としてそのぶんだけ予定していた古典期の研究は遅れている状況にある。 また、Covid-19の世界的感染拡大によって、予定していた海外での調査や研究者との交流は中止し、その結果最終年度に予定していた研究会の開催も非常に難しくなっているのも理由である。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度にあたる今年度は、遅れている古典期の研究を進める。具体的には、当初の主たる対象であったメガラを中心に、ペロポンネソス戦争や、その後の戦争などにおける外交交渉について分析していく。また、外交に携わった政治家もかかわったアテナイの弁論にも着目し、そこでメガラがどのように表現されていたのかに注目したい。そこに示されたメガラ像や外交交渉のあるべき姿は、政治家個人の考えというだけでなく、アテナイ全体で共有されていた(あるいはされるべきとされた)ものであると想定できる。それを実際の外交活動や交渉と突き合わせながら、古典期の外交文化の一側面を明らかにする。 最終的にそれを前年度までのヘレニズム時代以降の外交文化と比較し、また接続させることで、古代ギリシアの外交文化の歴史についてその全体像を明らかにする論文としてまとめることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた海外での調査や研究者との交流が、Covid-19の影響で全て中止となったこととが、一番の理由である。次年度もこの状況はすぐには好転しそうにないことから、海外での調査や予定していた海外の研究者の招へいは難しいと判断する。 そのため、本年度はこれまで十分に収集できていなかった史料集(IGやFGrHなど)や研究文献をそろえ、研究の基盤をさらに充実させ、国内での研究方向や論文の作成を進める計画である。次年度使用額は、そうした史資料の購入に主に充てるつもりである。 また、ひきつづき学会や研究会をオンラインで開催するための環境の整備にも一部の費用を充てたい。
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