2022年度から2023年度にかけてクントゥル・ワシ遺跡のラクダ科動物のストロンチウム同位体比の分析を進めた。その結果、クントゥル・ワシ遺跡のラクダ科動物はクントゥル・ワシ期には遺跡周辺で飼育されていたことが明らかになった。同時に、遠隔地から連れてこられたラクダ科動物もわずかに存在していたことも示された。さらに次のコパ期になると飼育地が増えた可能性が指摘された。複数の飼育地の存在はパコパンパ遺跡でも示されていた結果であり、当時の多様なラクダ科動物飼育が想定される。また、遺跡周辺での飼育地の出現とトウモロコシを餌にした飼育の出現が同時期に確認されることも、パコパンパ遺跡でみられた結果と一致している。これらから、トウモロコシを餌にもちいるラクダ科動物飼育が急速に広まったとする説が強く支持されることとなった。ただし、形成期中期のラクダ科動物はクントゥル・ワシ遺跡では確認できなかった。 中部高地のコトシュ遺跡の試料についてはコラーゲン抽出と歯エナメル質の前処理まで終わらせることができたが測定は2024年度に持ち越すこととなった。またインガタンボ遺跡の試料についても2022年度は新型コロナ対策の影響で試料採取を延期し、2023年度の調査に持ち越された。現在、次のプロジェクトの中で調査を進めている。 本研究によりトウモロコシ農耕とリャマ飼育を組み合わせた農牧複合生業が形成期後期にペルー北部高地で急速に広がったことが確実になったが、形成期中期には家畜起源地に近いクントゥル・ワシ遺跡を飛び越えて、より北のパコパンパ遺跡で高地高原飼育のリャマが出現するという課題が残った。そこで北部地域でこの新しい農牧複合生業が生まれたとする新たな研究計画を立ち上げ、引き続き研究を進める予定である。
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