研究課題/領域番号 |
19K13399
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研究機関 | (財)古代オリエント博物館 |
研究代表者 |
千本 真生 (財)古代オリエント博物館, 研究部, 研究員 (10772105)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 考古学 / バルカン半島 / ブルガリア / 青銅器時代 / 編年 / 土器生産 |
研究実績の概要 |
本研究は、バルカン半島南東部に位置する上トラキア平野(現在のブルガリア南部)における前期・中期青銅器時代の編年体系の構築と、土器生産・流通の実態解明を通じて、ヨーロッパ青銅器時代社会の特質と変容過程およびその歴史的背景の理解に迫ることを目指している。 最終年度にあたる三年目も昨年度に引き続き予定を大幅に変更して、1)昨年度整理したデャドヴォ遺跡資料の編年研究、2)前期・中期青銅器時代遺跡の年代測定資料の収集、3)前期・中期青銅器時代土器の胎土分析を行った。 デャドヴォ遺跡に関しては、土器の型式学的変遷と放射性炭素年代の値を検討し、前期青銅器時代第2段階と第3段階の間に年代上の断絶があるものの、土器型式には両段階の間に継続する特徴があることがわかった。年代測定に関しては、現地で土器資料を実見することはできなかったが、ブルガリア南部と西部に位置する7基の遺跡から出土した22点の動植物資料を現地研究者の協力によって得て、年代測定の準備を整えることができた。胎土分析に関しては、本年度も黒澤正紀准教授(筑波大学生命環境系)の協力のもと進めた。本計画の初年度に分析を実施していた前期青銅器時代のスヴィレングラト・ブランティーテ遺跡の出土土器を対象に新たに分析機器(XRD、SEM-EDS、XRF)を使って分析した。その結果、当該遺跡の土器は約800℃で焼成されていたこと、型式学的に在地系と外来系と評価できる土器胎土の特徴には違いがないことを確認した。そして、土器生産には遺跡北部のサカル・ストランジャ山地に由来する粘土が利用され、その粘土が遺跡近郊で採取可能であることから、当該遺跡では土器が遺跡の近くで生産されていた可能性が高いという結論をえた。このことによって当該期の土器生産の様相をより明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度も昨年度に続き、新型コロナウイルスの感染が現地調査の計画に影響した。とくに日本とブルガリアで相互に時期を違えながら感染の拡大と収束を繰り返したため、現地の研究協力者との連絡や資料の受け渡しが昨年度より難しくなってしまった。そのため計画していた通りに、研究を進めることができなかった。しかし、以下に示すように、一定の研究成果は得られたため、区分は「やや遅れている」とした。 これまでに整理を進めていたデャドヴォ遺跡については、資料に基づいて前期青銅器時代編年の研究を進め、その成果を国内の学会で発表することができた。上トラキア平野の前期・中期青銅器時代の編年体系を構築するために、上トラキ平野およびその周辺地域に位置し、近年発掘された遺跡から出土した土器資料を観察することはできなかったが、放射性炭素年代を測定するための動植物資料は得ることができた。その資料の年代測定については、すでに東京大学年代測定室に依頼している。胎土分析についてはスヴィレングラット・ブランティーテ遺跡の成果が国際ジャーナルに掲載された。中期青銅器時代のビコヴォ遺跡の土器胎土分析についてはすでに光学顕微鏡による観察を終え、現在はSEM-EDSやXRDなどの機器を使った分析を進めているところである。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は本研究計画の最終年度となる予定であったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で当初の研究計画を遂行することができなかったため、補助事業期間を一年延長することにした。新たに本研究計画の最終年度となる次年度には現在測定中の資料の年代を検討し、現地調査の実施の如何にかかわらず、上トラキア平野における前期・中期青銅器時代の編年研究について成果を公表する機会をつくる。胎土分析についてはビコヴォ遺跡資料の分析結果と現地調査の成果に基づいて、中期青銅器時代の土器生産および周辺地域との交流関係のあり方について検討し、成果を学会で公表する。そして、次年度には本研究計画において得られた成果を整理し、上トラキア平野における青銅器時代社会の特質と変容過程の実態を明らかにし、論文としてまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大の影響で予定していた海外調査を実施できなかったため、分析資料を収集する目的で計上していた助成額を旅費や人件費のためにすべて使いきることができなかった。 今年度に使用することのできなかった助成額については、次年度に外部研究機関に資料分析を依頼するために使用する計画である。
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