本研究は、バルカン半島南東部に位置する上トラキア平野(現在のブルガリア南部)における前期・中期青銅器時代の編年体系の構築と、土器生産・流通の実態解明を通じて、ヨーロッパ青銅器時代社会の特質と変容過程およびその歴史的背景の理解に迫ることを目指している。 当初の計画では2021年度が研究計画最終年度となるはずであったが、新型コロナウイルスの感染拡大防止対策が国内外で継続して実施されていたため、計画を予定通りに進めることができなかった。その対応策として補助事業期間を一年間延長したことにより、新たに本研究計画の最終年度となった2022年度には、1)デャドヴォ遺跡資料の調査、2)前期・中期青銅器時代遺跡資料の年代測定、3)中期青銅器時代土器の胎土分析を行なった。 テル型集落址のデャドヴォ遺跡に関しては、出土位置が記録されている前期青銅器時代層の各建築層から出土した土器の型式学的分析を進めたところ、前期青銅器時代第1段階から第3段階前半にかけての型式学的特徴の変遷を示す資料を確認することができた。 年代測定に関しては、ソコル・ヒミトリヤタ遺跡をはじめとする上トラキア平野とブルガリア西部に位置する7遺跡から出土した27点の動植物遺存体の放射性炭素年代を測定した。その結果、前4千年紀中葉から前2千年紀前半までの年代値を示すデータを得ることができた。土器胎土分析に関しては、昨年度に引き続き、黒澤正紀准教授(筑波大学生命環境系)の協力を得て進めた。分析には中期青銅器時代のビコヴォ遺跡から出土した土器25点を対象に、走査型電子顕微鏡、蛍光X線分析装置、粉末X線回折装置を用いた。その結果、当該遺跡の土器は同じ素材で作られていたこと、前期青銅器時代の土器に比べて作り方がやや粗雑であり、焼成温度・時間が比べて不十分であることが明らかになった。
|