中国古代の殷周青銅器は、曲線的な形状をもち、またその表面には幅1㎜にも満たない凹線によって精緻な文様・銘文が施されることを特徴とする。これらは、土製の分割鋳型を用いた鋳造品であり、その文様・銘文は鋳型上では凸線として作られていたはずである。実際中国では、近年数多くの土製鋳型が発見され、その製作法の研究が進められている。本研究では、主に日本所蔵の殷周青銅器を調査対象として、青銅器上に残された製作痕跡を、肉眼観察と3次元デジタルデータの撮影・分析を通じて観察した上で、鋳型製作法の推測・復元を行うことを目的としている。 本年度(第4年度)は、主に次の3点を行った。1点目に、殷周青銅器・銘文の製作技法研究の対象として、第3年度に3次元デジタル撮影を行った黒川古文化研究所所蔵青銅鼎2器(西周時代)について、データの作成を終え、その後データの解析と製作技法に関する検討を進めた。その成果は、今年度の学会で報告し、報告後には、論文として学術誌へ投稿する。 2点目に、昨年度海外所蔵資料に基づき成果報告を行った東周時代秦国の青銅器にみられる西周からの技術継承について、引き続き、日本国内で所蔵される関連資料の実見調査や、紙媒体ベースでのデータ収集を行い、検討を進めた。殷・西周時代と東周時代の転換期における青銅器製作技術の動向を示す資料群であり、今後適宜成果報告を行う。 3点目として、隣接地域であるユーラシア草原地帯の古代青銅器の実見調査を行い、基礎的情報の収集を行った。上記の1に関連すると想定される情報について、消失原型法や複製鋳造の技法等に着目して、中原地帯・草原地帯の間での技術交流に関する知見を得た。また当該地域で後続する中世の金工品の製作技術に関する研究及びそれに基づく報告についても、昨年度に引き続き、行った。
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