研究課題/領域番号 |
19K13408
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研究機関 | 京都外国語大学 |
研究代表者 |
塚本 憲一郎 京都外国語大学, 京都外国語大学ラテンアメリカ研究所, 客員研究員 (20755368)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 古代マヤ文明 / 富の蓄積 / 社会の階層化 / 都市周縁部 / 非王族エリート集団 / エル・パルマール遺跡 / 旗手 |
研究実績の概要 |
当該年度は、予定通りエル・パルマール遺跡の北周縁部にある複合建造物GZ7を平面的・層位的に発掘し、修復を行った。ここにはラカム(旗手)集団の指導者が居住していたという仮説を立てたが、それを実証する壮麗な建築装飾やマヤ文字が刻まれた土器が出土した。複合建造物の規模が予想以上に大きいため、発掘区域を中心にある建造物GZ7aに定めた。発掘により、建造物内は大きく南北3か所に区切られ、各空間は廊下によって繋がれた東西2部屋から構成されている。また3か所すべてから石造のベンチが出土し、特に中央の部屋から出土したベンチは、マヤの多彩式土器に描かれた宮廷風景に見られる、王が座っている背もたれがついた玉座の特徴を有していた。南部屋のベンチは、古典期終末期に見られるユカタン北部の建築様式である半円柱の装飾が施されていた。また、各部屋の壁にはカーテンを支える孔が穿たれており、そこに赤色壺の首の部分が再利用されて埋め込まれていたが、この南部屋に埋め込まれた土器は、カーテンを支える目的として特別に作られ、さらに口縁部には、マヤ文字が刻まれていた。メキシコ自治大学のオクタビオ・エスパルサ博士によると、マヤ文字には部屋の所有者と思われる人物、チャフク・セエム皇子の名前が刻まれている。 各部屋の床面直上には、部屋の諸活動を復元するのに重要な遺物が見つかったため、写真と光波測量機によって位置情報を実測した。部屋の活動を複数のデータから復元するために、1mごとに床のサンプルを採取した。また建築年代と層位を調べるために部屋内に5か所の試掘を実施し、それによって床下から5つの墓が埋葬品と共に出土した。この建造物と広場の関係をさらに深く理解するために、広場の北東部分を占める建造物GZ9を平面的・層位的に発掘した。これらの成果を、国際会議にて英語、スペイン語で発表し、また418頁の報告書をメキシコ政府に提出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書に記載した1年目の調査対象であった複合建造物GZ7を平面的・層位的に発掘したことにより、仮説を実証できたのが主な理由である。また、メキシコ政府への報告書提出のみならず、1年目に研究成果を複数の国で発表できたのも理由である。 発掘データの分析は予定通り本年度実施するが、理化学分析が必要な遺物は、メキシコ政府の許可の下、すでに依頼する研究所へ送っているために、今後の分析もスムーズに進むと予想される。ただし、コロナウィルスの世界的な蔓延による遅延の可能性もありうる。
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今後の研究の推進方策 |
発掘により出土した考古資料を分析することで、これまでの出土遺物と比較分析し、集団内における経済的差異を検討する。遺物の肉眼分析は、遺跡内にあるキャンプハウスにて実施する。土器は、接合作業のあとに肉眼分析を行い、他の遺物と共にメキシコ市にある人類学・歴史学大学のマヤ研究室へ移動したのち、共同プロジェクト団長であるハビエル・ロペス教授と共に、顕微鏡によって胎土や混和材を特定し、在地製品と搬入品を区別する。出土した黒曜石やヒスイ製品も定量的に分析する。採取した床サンプルは、メキシコ国立自治大学人類学研究所において、ルイス・バルバ博士と共同で理化学分析を行い、建造物内外の活動を復元する。上記から得られるデータを、中心部や他の建造グループから出土した遺構や遺物と比較し、都市王朝内における経済的差異や、富の蓄積と政治的地位の関係を総合的に考察する。
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