2021年度は、ラカム集団のリーダーが居住していた複合建造物の発掘によって出土した遺物の分析を完了して、メキシコ政府に報告書を提出した。フランス コート・ダジュール大学のリディ・デュッソル博士との共同研究により、床面や土器に炭化物として残された古植物種を走査型電子顕微鏡を使って分析した。その結果、トウモロコシや豆、古代酒に使われたと考えられる植物が検出された。メキシコ国立自治大学のルイス・バルバ博士とアウグスティン・オルティス博士との共同研究では、これらの古植物種と漆喰床に付着した有機物と無機物との空間分布を比較した。人の活動範囲と種類を示すリン酸、脂肪酸、タンパク質、pHを床面から抽出して比較すると、さまざまな諸活動が明らかになった。例えば、中央部屋の東側にある玉座のような石造ベンチでは招待客に食事を振舞っていたようである。建物の北西にある部屋では調理跡も特定した。それに対して、南東部にある部屋は貯蔵庫として使われていたと推測される。南西部の部屋から出土したカーテンを固定する穴にはめ込まれた土器に刻まれたマヤ文字を解読して、そこに居住していた人物の名を特定できた。黒曜石は蛍光X線分析を使って産地同定した。その結果、搬入された黒曜石のほとんどがグアテマラ高地のエル・チャヤル産であることが分かった。これらの成果を国際会議で発表し、論文雑誌のLatin American Antiquityでも出版して一定の評価を得た。ラカム集団の物質文化を精査した結果、本研究の目的である政治的地位と富の蓄積との関係に乖離を見出した。つまり、古代マヤ文明では日本の江戸時代のように、政治的地位の高さが必ずしも経済状況に反映されていなかったと結論付け、それらをまとめた論文を共著として発表した。今後は、これらのデータを単著としてまとめて出版する予定である。
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