研究課題/領域番号 |
19K13409
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
宇佐美 智之 立命館大学, 文学部, 助教 (60838192)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 中央アジア / シルクロード / オアシス地帯 / ザラフシャン川流域 / GIS / 衛星画像 / カフィル・カラ |
研究実績の概要 |
本課題は,ザラフシャン川流域の古代・初期中世期における都市形成と地域社会について考察することである。この取り組みでは,(1) 大型都市遺跡の発掘と構造分析,(2) 考古遺跡の踏査と体系的集成,(3) 地理環境・交通路の調査・空間解析,以上3つの作業を柱としている。対象地域(ウズベキスタン・サマルカンドなど)での資料の収集・整理・分析が研究推進の基礎であり,2020年度の世界的な情勢(コロナ禍)にあって現地調査の実施がほぼ不可能であったことから,(1)~(3)のいずれの作業にも大きな制約・問題が生じたことは否めない。当初の研究目的・計画に即した成果を挙げるには相当に厳しい状況が続いている。 こうした状況において,研究計画に若干の変更を施すとともに新しい研究手法を取り入れることで,(2)および(3)を中心に,本課題に関わる知見や見通しを得ることに努め,今後の現地調査活動に備えることとした。具体的には,衛星画像・空中写真や標高データ(DEM)を活用し,① 考古遺跡情報の収集,② 遺跡のプランや立地に関するGIS空間分析,③ 自然地理環境分析等を進めた。さらにこれまでに得た知見を地域社会にフィードバックする目的で,④ 当該地域の文化財保護に向けた取り組みにも着手した。 上記①~③については,いわば空からの情報収集であるが,Worldview等の超高精細な衛星画像ならびに1960年代の米国偵察衛星(CORONA等)を利用して,遺跡の分布,立地環境,遺跡規模やプランの比較,囲郭施設の有無・形状,可視領域といった諸項目を検討した。その解釈の正否は今後の現地確認調査にも委ねられるが,有力都市遺跡の立地やプランを類型化し,一定の見通しを得た。④についてはLandsat衛星画像を利用しつつ,対象地域の土地開発・変遷と文化財への影響性を考察し,今後の文化財保護への提言を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度の世界的情勢(感染症拡大状況)の中にあって現地調査が一切実施できなかったことにより,研究推進の柱となる3つの作業にもかなりの制約が生じた。特にすべての作業の基礎となる都市遺跡の発掘調査(昨年度までの継続)や現地での資料整理・分析が行えなかったことは,研究計画上非常に大きな問題となったといわざるを得ない。この面では研究計画がスムーズに遂行できているとはいえない。ただし,こうしたフィールドワークに関わる様々な制約や問題があった一方で,デスクワークにあたる時間が多くなったことは,必ずしもマイナスに働くばかりでなく,当初の計画よりも理解を深めえたといえるところもあった。特に,高精細衛星画像や1960年代の米国偵察衛星画像の解析・判読を通じて,これまで見落としていた(近年の開発で消失した,ないしは大きな破壊を受けた)考古遺跡の存在,あるいは都市遺跡のプランや立地特性について議論が深まり,予想以上に多くの知見が得られることにもなった。これらの知見は,本課題を達成する上で小さくない意義をもっているし,今後の研究遂行に役立つものである。以上のことから,現地調査活動を実施できなかったという非常に厳しい状況にありつつも,ポジティブな面が見出されたことを加味して,総合的な判断としてはやや遅れているという評価を行った。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度においても引き続き海外渡航と現地調査の実施には大きな制約が生じるものと予想される。現地調査が難しい場合には,2020年度に実施した衛星画像判読・解析の内容を拡充する。現在の対象地域(ザラフシャン川流域)にとどまらず,中央アジアオアシス全域に視野を広げて,これまでに把握している都市遺跡の立地特性やプラン等について検討し,広域的なスケールで整理を行う。当初の計画よりも広い視野で比較・分析を行い,得られた知見を今後の地域研究にフィードバックできるようにしたいと考える。また,当初の研究計画では必ずしも明確な方針・目的意識を示してはいなかったが,2020年度に着手した文化財保護に向けた取り組みも,継続していきたいと考えている。学術研究の遂行に制約がある反面,これまでの研究成果をまとめ,それを社会的に還元する方法を模索・具体化することは可能である。この点を含め,2021年度の状況や変化をにらみつつできる限り柔軟な対応をとるよう心掛けたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度の世界情勢(コロナ禍)にあって当初計画していた海外渡航および現地での発掘調査等が実施不可であったため,2020年度内での経費執行が行えなかったことによる。2021年度に海外渡航および現地調査が実施可能であれば,2020年度分の遅れを取り戻すために2年分をまとめて使用できるよう手配する予定である(主に人件費・謝金および旅費)。ただし2021年度にも引き続き海外渡航や現地調査が実施できない場合は,研究計画を一部変更し,高精細衛星画像や標高データ等の物品購入に使用する。
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