本研究は,ザラフシャン川流域(ソグド)を中心に,中央アジア・オアシスの古代・初期中世期における都市社会の形成過程について考察することを目的としたものである。当初の研究方法・計画としては,(1) 大型都市遺跡の発掘と構造分析,(2) 中央アジア地域全体における考古遺跡の集成,(3) 地理環境・交通路の調査と空間解析,これら3つの研究活動を柱とした。しかし初年度(2019年度)を除き,コロナ禍における渡航制限等により現地調査の実施自体が不可能または困難であったことから研究方法には変更を加えている。上記(1)については,カウンターパートである現地機関・研究者を中心に試掘調査を進め,可能な範囲で資料収集・分析を行った。(2),(3)については,現地調査を断念する一方,高精細衛星画像や地図類を利用することで国内にいながらも遺跡・地理情報の蓄積に努めた。ただしこの結果については今後現地での検証等が課題として残る。 コロナ禍による制約等を受けた中,(1)大型都市遺跡の発掘・構造解明においては特に重要な進展があった。計画通り調査を実施しえた2019年度にはサマルカンドのカフィルカラ遺跡,また2021年度・2022年度(最終年度)には新たにミングテパ遺跡を調査対象とした。ミングテパ遺跡に関しては,アラビア語や漢文史料に記録される有力な遺跡(カブダンまたは曹国の中心)に比定され,当地域の歴史的過程を考える上で重要な位置を占めるものであるが,その内容については従来ほとんど議論されてこなかった。この2か年の調査を通してシャフリスタン地区の複数箇所で試掘調査を実施し,一部構造を明らかにするとともに,特殊な機能を推測させる施設(調査者の一人は「兵舎」を想定)の存在などが新たに確認された。この他にも,現在整理中であるが,時期の検討材料となる貨幣をはじめ様々な出土資料があり,重要な知見・情報を得ている。
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