原料の粘土と混和物とを分離した高精度な起源推定法の確立を目指して、桧の木遺跡から出土した阿玉台式土器中に含まれる鉱物から、この土器を特徴付ける「指紋鉱物 (土器の分類に有効な鉱物)」を決定した。桧の木遺跡出土の縄文土器77点 (阿玉台式59点、その他18点) をX線回折法で分析し、含有鉱物を明らかにしたところ、阿玉台式土器のみに黒雲母が検出された。これは、阿玉台式土器の作製時に、黒雲母を含む混和材が意図的に加えられことを示唆している。黒雲母は固溶体鉱物なので、混和材の起源を示す指紋鉱物になり得る。 混和物の候補である筑波山周辺の河川砂37点をX線回折法で分析したところ、34地点の試料から黒雲母が検出された。これは、筑波山由来の岩石片や砂が、阿玉台式土器に混和されていた可能性を示唆している。 阿玉台式土器を特徴づける黒雲母のピーク出現位置と、産地や組成 (固溶比) との関連性を明らかにするために、茨城県、愛知県、京都府、鳥取県、岡山県、香川県および長崎県から産出した黒雲母を含有する岩石を細かく粉砕した後、X線回折法で分析した。黒雲母のピーク位置を示す格子面間隔を算出したところ、鳥取県、香川県および長崎県に由来する黒雲母は有意な差を示したが、茨城県、愛知県、京都県および岡山県のものには有意な差は見られなかった。本結果を蛍光X線分析による固溶比 (Mg/Fe) と併せることで、黒雲母の産出地依存性を解明できる可能性がある。そこで、重液分離で、これらの岩石粉末から黒雲母を含む重鉱物試料を取り出した。この重鉱物試料中に存在する黒雲母以外の鉱物量をX線回折法で見積もり、蛍光X線法による重鉱物試料の化学組成から差し引くことで、各地域の黒雲母の固溶比 (Mg/Fe) 算出を試みた。
|