最終年度にあたる今年度は、これまでの研究の総括をおこなうとともに、その成果をまとめた報告書の作成に注力した。それに先立ち、昨年度まで実施した資料実験によって得た、春秋戦国時代青銅器の施紋技法に関する基礎的知見を検証するために、6月末に追加の鋳造実験をおこなった。その結果、これまで諸説あった春秋戦国時代青銅器の施紋技法は、あらかじめ紋様の原型を製作しておき、そこに鋳物土を貼り付けることによって、紋様のほどこされたプレートを起こし、それらを器の原形上に配置するという技法がとられていた可能性の高いことを論証した。以上の結果を踏まえたうえで、4年間の研究成果をまとめた報告書を作成し、3月末に刊行している。 研究期間全体を通じて、本研究は2通りのアプローチによって春秋戦国時代青銅器の分析をおこなってきた。第一は中国各地で出土する青銅彝器に対する考古学的な分析。これまであまり着目されてこなかった、青銅器紋様の表現にみられる系統差を手がかりとして、出土鋳型の特徴と照合することにより、中国各地の工房で製作された青銅器が複雑に流通する様を描出した。さらに、文字史料への分析をそこに加えることにより、青銅器生産と流通の変革の背景にみられる社会構造の変化を読み解いた。第二に青銅器の鋳造技術に関する実験考古学的分析。複雑繊細な青銅器の鋳造技術については、古くから研究がおこなわれ来たものの、未解明の点が数多く残されている。本研究では、そのなかでも金文の製作技法および春秋戦国時代青銅器の施紋技法をテーマとして、鋳造実験をベースとした実証的見地から、従来の説に再検討を加えた。 以上の研究成果により、春秋戦国時代における青銅器生産・流通の様相の一端を、複合的アプローチから明らかにすることができた。
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