研究課題/領域番号 |
19K13426
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構九州国立博物館 |
研究代表者 |
渡辺 祐基 独立行政法人国立文化財機構九州国立博物館, 学芸部博物館科学課, アソシエイトフェロー (20825583)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 文化財害虫 / 生活史 / 個体群動態 / 木材害虫 / X線CT / チビタケナガシンクイ / オオナガシバンムシ |
研究実績の概要 |
本年度は、各種文化財害虫の基礎的な生活史、食害特性、行動パターン、および個体群動態を明らかにするための研究に取り組んだ。対象とした文化財害虫は、竹材害虫チビタケナガシンクイ、木材害虫オオナガシバンムシ、および紙類の害虫であるシミ科の一種とした。 チビタケナガシンクイについては、竹材内部における成虫の産卵行動のX線CTおよびアコースティック・エミッション(AE)モニタリングによる非破壊的な解析を行った。その結果、成虫1頭あたりの産卵数、産卵に伴う食害量、成虫の穿孔活動と明暗の関係等が明らかになった。研究代表者による既往の成果と併せて、本種の一生を通じた生活史および食害特性が解明されたこととなった。 オオナガシバンムシについては、食害材内部おける幼虫の1年を通じた食害行動をX線CTによって観察した。その結果、幼虫は新たな孔道をあけず、ほぼ常にフラス(虫粉)内部を動き回っていること、および冬季に気温が10°C程度まで低下すると活動を停止することが明らかになった。また、1年間では明確な成長は認められず、幼虫期間が複数年にわたることが示唆された。 シミ科の一種については、卵からの発育過程の観察、および齢構成の経時変化を明らかにするための捕獲調査を行った。その結果、本種の基礎的な生活史が明らかになり、卵および4齢期以降の死亡率は極めて低いこと、幼虫は孵化から約1年で産卵可能となりうること、産卵は春季から開始され、孵化した若齢幼虫の個体数が夏季以降に増加することなどが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、チビタケナガシンクイ、オオナガシバンムシ、およびシミ科の一種について、個体群動態および食害の進行過程をモデル化するために必要な生活史、食害特性、行動パターン等に関する基礎的知見を得ることができ、おおむね計画通りに研究を進めることができた。ただし、オオナガシバンムシおよびシミについては一生が1年を超えるため、次年度以降も継続して調査を行っていく必要がある、また、シミ類に関する既往の研究および文献が十分にないため、本研究で対象としているシミの種レベルでの同定ができなかったことも、次年度以降の課題となった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度からの継続課題として、オオナガシバンムシの成長および食害行動のX線CTによる観察、およびシミの発育および個体群動態に関する実験を継続して行う。また、各種文化財害虫の行動パターンをモデル化するための実験を実施するなど、文化財害虫による被害のモデル化に必要な基礎データを蓄積していく。さらに、DNA情報に基づくシミ類の同定手法確立のため、現在の供試虫を含む各種シミ類の標本資料を収集する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度、学術誌に投稿した論文の審査が完了しておらず、受理は次年度の見込みとなっている。そのため、本論文の掲載料に充てる予定であった経費を未使用額として次年度に繰り越し、受理され次第、掲載料として使用する予定である。
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