これまで、各種文化財害虫の個体群動態や食害の進行過程をモデル化するために必要な基礎的情報を明らかにしてきた。本年度も引き続き、竹材害虫チビタケナガシンクイ、木材害虫オオナガシバンムシ、および紙や書籍の害虫であるシミ科の一種を対象とし、生活史や食害特性、行動パターン、個体群構造の季節変動を明らかにすることに取り組んだ。 チビタケナガシンクイについては、マイクロフォーカスX線CT装置によって標本を高分解能撮像することで成虫の雌雄を判別可能であることが示された。この方法に基づき、幼虫期の齢数が異なった個体の雌雄判別を行ったところ、齢数と性の間には明確な関係は確認されなかった。この成果は学術誌にて公表した。 オオナガシバンムシについては、これまで食害材内部における幼虫の行動などを文化財用X線CTスキャナによって観察してきたが、本年度は終齢幼虫が蛹化・羽化を経て材外へ脱出する過程の観察を行った。その結果、終齢幼虫は4月下旬~5月下旬に前蛹となり、5月中に蛹となり、5月下旬~6月下旬に羽化した。この成果は国内学会にて発表した。 シミ科の一種については、発生現場における捕獲調査を複数年にわたり実施し、捕獲個体の体サイズの分布を解析した。得られたデータより、本種の個体数が11月にピークとなること、7月から秋季にかけて、若齢幼虫の占める割合が大幅に増加すること、これらの傾向が毎年繰り返されることなどが示唆された。また、本種の同定に必要な形態的特徴の観察などを行った。捕獲調査結果については国際学会にて発表し、同定結果については現在投稿準備中である。
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