科学研究・教育など多方面に活用され始めている3D技術を現生哺乳類分野でも活用することで、研究・教育に新たな効果をもたらす可能性がある。特に資料の収 集に様々な制約のあるクジラ類において3D技術の活用の効果が高いと考えられる。突発的に発生する座礁個体を研究する場合、時間的な制約もあり、十分なデータを収集できないことがあるが、3Dデータとして残しておくことができれば、後からの再計測や観察等が可能になる。また、クジラ類は超大型の動物であるが故に、多くの標本を保管することも複数個体の同時観察を行うことが困難である、博物館等での展示においても点数が限られてしまう。しかし、標本の3D データ化、3Dプリンタによる縮小模型の作成を行うことでこれらの問題も解決される可能性がある。本研究では、哺乳類分野における3D技術の有用性について クジラをモデル生物として検証し、新たな研究・教育手法の確立を目指した。 千葉県内で発生した鯨類の座礁現場に赴き、座礁した個体の写真撮影を行い、撮影した写真を用いてフォトグラメトリーにより座礁した状態の鯨体の3D復元を実施した。また、3Dスキャナを使用して鯨類の骨格の3Dデータも取得した。その他、所属博物館において3Dプリントした鯨類頭骨の縮小模型と標本を組み合わせた講座や作成した3Dデータ及び3Dプリントした縮小模型を使った企画展示を行った。 その結果、再計測・観察が可能な鯨類の3Dデータを作成することができ、収蔵標本に付随する情報量を増やすことに成功した。また、イベントや展示では、3Dデータを画面上に表示したり、3Dプリントした縮小模型を複数用意することで1つしかない標本を複数人で観察することができた。特に新型コロナウィルス感染症流行下でのイベントの実施に大きく貢献し、鯨類標本の3Dデータは博物館の教育普及事業や展示事業に相性が良いことが確認された。
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