研究課題/領域番号 |
19K13436
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
瀬戸 芳一 東京都立大学, 都市環境科学研究科, 特任研究員 (70769942)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 局地風系 / 海陸風 / 気圧配置 / 気温分布 / 大気汚染常時監視測定局 / 地表面粗度 / 関東平野 |
研究実績の概要 |
関東平野における夏季の局地風系は,日本付近の気圧配置と密接に関係し,近年における日中の高温への関与も指摘される.しかし,気圧配置型の経年変化に伴う,海陸風などの局地風系の変化および気温分布への影響は明らかでない.本研究ではこれらの解明に向けて,気象庁アメダスに加え,各都県による大気汚染常時監視測定局(以下,常監局)における約40年間の高密度な地上観測資料を用いて,局地風系の類型化および近年における変化の統計的検討を行う. 2020年度は,昨年度に引き続いて常監局における過去の測定結果報告書を収集し,位置情報や風速計高さの履歴を整備した.これらを用いて,周辺の土地利用状況から推定した地表面粗度による風速の高度補正や,アメダスとの比較による品質管理を行い,局所的な影響を除いた長期にわたり使用できる均質な地上風データを作成した.東京都や神奈川県では風速計高さが統一高度(10m)より高い地点が多いため,風速補正の結果,相対的に風速は減少して風下側の埼玉県南部付近の収束が弱まる傾向にあった. 典型的な局地風系の出現が期待される晴天弱風日の抽出を行い,日中における風系場の特徴や,海風前線に伴う収束域および都心部風下側の弱風域の時間変化を,観測風から詳細にとらえることができた.近年の風系変化として,東京都西部や埼玉県南部で海風前線の侵入がやや遅れ,風下側の弱風域がより広範囲となっていた.これらの地域では風速の減少傾向が認められ,粗度の変化が大きい地域と対応している可能性が示唆された.夜間についても同様の検討を行い,都区部から神奈川県東部にかけて風向が南寄りに変化しており,北~西寄りの陸風が東京湾岸の地域まで到達しない傾向が示唆された. これらの研究成果は,2020年日本地理学会秋季学術大会シンポジウムにおいて発表を行い,オンライン誌(E-journal GEO)にシンポジウム報告が掲載された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度は,測定結果報告書の収集に時間を要したことなどにより昨年度中に完了しなかった,対象の全期間についての常監局地点情報の整備をまず行った.また,風速の高度補正や品質管理を総合的に行い,長期にわたり使用できる均質な地上風データセットを作成した.その後,均質な地上風から算出が可能となった収束・発散量も用いて,風系場や発散場の時間変化に着目し,局地風系の近年における変化について検討を行った.その結果として,日中における風系変化を主に想定していたが,夜間についても明瞭な風系の変化傾向が示唆されたため,これらの詳細な検討を重点的に進めた. それに伴って,当初2020年度に行う計画であった,多変量解析を用いた風系の類型化や気圧配置型との対応についての検討がやや遅れており,気圧配置型の出現頻度変化や気温分布との関係についての課題が残されている.これらの理由により,今後さらなる研究の展開が期待されるものの,進捗状況はやや遅れていると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
これまでに整備を行った,多数地点における補正した観測値に基づいた地上風データセットを用い,局地風系場の類型化および近年における変化の統計的検討,気圧配置型との対応の把握を早急に行う予定である.一般風など総観場の状況や,均質な地上風から算出が可能となった発散場に着目し,多変量解析を用いた風系の類型化を行うことで,風系型ごとの出現頻度変化などにも着目して,関東平野における局地風系の近年における変化を統計的に検討する.また,数値モデルによる過去の長期間の気象場再解析データであるJRA-55(気象庁55年長期再解析)を用いて,風系と気圧配置型との対応を把握する.そのうえで,局地風系と気圧配置型との関係には経年変化が示唆されることから,気圧配置型そのものの出現頻度が実際に経年変化しているかについても検討を行い,局地風系の近年の変化と気圧配置型の出現頻度とを対応づける. さらに,局地風系と気温分布との対応を明らかにするとともに,高温発現時における風系と気圧配置型の出現頻度に着目し,近年頻発する高温の要因など,気圧配置型変化が局地風系を通じて地域スケールの気温分布に及ぼす影響を,経年変化の観点からも解明する.
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度においては,観測点情報の収集,整備に加え,観測データを用いた地上風データセットの作成や,近年の風系変化についての検討を中心に研究を行った.そのため,当初予定していた,大容量の長期再解析データ保存用の記録媒体を購入しなかったほか,参加予定学会の多くがオンライン開催となり,参加費や旅費への使用が減少したため,次年度使用額が生じた. 2021年度は,風系と気圧配置型との対応を把握するため,全球を網羅する格子点値でありデータ量の大きい長期再解析データを使用する予定である.これらのデータ保存および解析データ格納のための記録媒体を準備する必要がある.また,研究の進展に伴い,成果発表や論文投稿に関する費用が生じることから,当初の2021年度分と合わせて,これらに使用する予定である.
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備考 |
日本地理学会2020年秋季学術大会シンポジウム報告「都市気候と局地風系:ローカル気候学研究の現状と課題」(瀬戸芳一・高橋日出男,関東平野における近年の風系変化把握に向けた大気常時監視局の地点情報整備と風速補正),E-journal GEO 16: 140-145.(発行年: 2021年,doi: 10.4157/ejgeo.16.140,オープンアクセス)
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