研究課題/領域番号 |
19K13437
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
梶山 貴弘 日本大学, 理工学部, 助教 (50772034)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 氷河変化 / 地球温暖化 / 衛星画像 / ドローン / 空中写真 / 写真測量 / カラコラム |
研究実績の概要 |
地球温暖化が進行している中で,パキスタン北部に位置するカラコラム山脈では,近年,氷河が拡大傾向にある。本研究では,北西部のパスー氷河を対象として,およそ1850年以降のやや長期的な時間スケールの視点から,氷河変化と気候変化の関係を明らかにすることを目的としている。2019年度はおもに (1) 衛星画像解析,(2)空中写真撮影,(3)写真測量,を実施した。 (1)衛星画像解析では,パスー氷河末端域における1967~2019年の面積変化と気候変化の関係について解析した。衛星画像を用いて解析した結果,パスー氷河は1967~1994年に縮小,1994~2006年に拡大,2006~2019年に縮小していることが明らかとなった。このことから,カラコラム山脈の氷河の拡大は,わずか1994~2006年の12年間の振る舞いであり,最近は縮小していることが分かった。なお1967~2019年の期間は,150年間の氷河変化において,衛星画像を用いて復元することが可能な期間を示す。 (2)空中写真撮影では,夏季にパキスタン北部のパスー氷河において現地調査を実施した。空中写真は,UAV・UAS(ドローン)を用いてパスー氷河およびその周辺地域を撮影し,対地高度の異なる約2500枚の写真を取得することが出来た。これら空中写真は,現地調査でしか得られないデータである。 (3)写真測量では,現地調査で得られた空中写真を用いて,コンピュータと写真測量ソフトによって,多視点ステレオ写真測量を実施した。高高度から撮影した空中写真約1000枚を用いて写真測量を行った結果,パスー氷河およびその周辺地域の対象地域全域のオルソ画像,地形の3次元モデル,DEM,および地形図等を作成することが出来た。これらは,本研究の基盤となるデータである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究期間初年次である2019年度は,おおむね研究計画どおりに(1)衛星画像解析,(2)空中写真撮影,(3)写真測量,をそれぞれ実施することが出来た。 (1)衛星画像解析では,衛星画像を用いて解析可能な期間の氷河変化を明らかにすることが出来た。また,気象の客観解析データの処理も成功し,氷河変化との関係を考察することが可能となった。この成果は,学術論文として報告することが出来た(梶山,2020)。 (2)空中写真撮影では,対地高度の異なる約2500枚の写真を撮影することが出来た。そのうち,高高度から対象地域全域を撮影した約1000枚の空中写真は,撮影品質も良好であった。低高度から撮影した空中写真の品質も良好であり,今後もさらに撮影枚数を増やしていく予定である。また現地調査中に,近隣で氷河融解水の増水に伴う渓岸侵食が発生し,その観察と空中写真撮影も実施することが出来た。 (3)写真測量では,高高度から撮影した空中写真約1000枚を用いて,対象地域全域のオルソ画像,地形の3次元モデル,DEM,および地形図等を作成することが出来た。しかし多視点ステレオ写真測量については,処理・解析時間が想定以上に掛かることが分かり,低高度から撮影した空中写真の処理・解析が計画よりも遅れてしまっている。この問題は,解析補助者を導入しなかったこともあるが,それ以上にPCのスペックに基づく処理能力に依存するものであるため,今後はより処理能力の高いPCを新たに整備することも検討する必要がある。なおこの処理・解析は,次年度も引き続き継続していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は,(1) 写真測量,(2) 氷河地形・地質調査,(3) 予察的地形分類,を実施する予定である。 (1)写真測量では,2019年度に撮影した空中写真を用いた多視点ステレオ写真測量を継続して実施する。とくに低高度から撮影した空中写真を用いて,オルソ画像,地形の3次元モデル,DEM,および地形図等を作成する。なお写真測量は次年度以降も継続して実施する必要があるため,先述のように,より処理能力の高いPCを新たに整備することも検討する。 (2)氷河地形・地質調査では,現地調査を主体として実施する。ただし,現地調査前に(1)で作成した地形図等の読図や空中写真判読から,簡易的な地形分類を行い,現地調査用の簡易的地形分類図を作成して,現地調査の計画を立てる必要がある。現地調査では,簡易的地形分類図や既存資料を基に,氷河地形とその地質の観察・測定を実施するとともに,必要に応じて岩石試料をサンプリングする。また必要な地点においては,ドローンを用いた低高度からの空中写真撮影も実施する。これら現地調査は,夏季に実施する予定であるが,政治・感染症の情勢によっては延期し,2021年の冬季または春季に行うことも想定している。 (3)予察的地形分類では,現地調査の結果を基に,地形分類を行う。地形分類には,夏季の現地調査によって得られた空中写真も用いる予定であるので,多視点ステレオ写真測量も引き続き実施する。現地調査における氷河地形・地質調査は2020年度で完了せず,2021年度も継続して行う必要があるので,2020年度の時点では予察的な地形分類図を作成する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は,多視点ステレオ写真測量の解析補助者を導入しなかったため,その人件費が掛からなかったことによる。しかし解析補助者を導入するよりも,処理能力の高いPCを導入した方がより効率が高いと想定されたため,その人件費の残額は,2020年度以降のコンピュータの購入費用に充当することを検討している。 一方で,現地調査における当該国の物価上昇が想定以上であり,今後も上昇が続くことが懸念される。2019年度の現地調査は,期間を短縮し,また調査拠点数を少なくして支出を抑えたが,2020年度以降は当初の使用計画よりも増額する可能性がある。加えて2020年度は,当該国の感染症の情勢やそれに伴う政情不安も懸念されるため,現地調査の日程やその費用については不透明な部分がある。したがって現地調査用の費用として,2019年度の次年度使用額と2020年度の請求額の使用については,慎重に検討する必要性があると考えられる。
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