本研究では、主に以下の活動を進めてきた。 1.自然・社会・人間の関係を地域レベルで検証。アンケート調査により、自然環境が、直接的に、また、土地への愛着(Place attachment)や対人関係(Social capital)を介し、人の幸福感に寄与していること、さらには、自然中心的な価値観を持った人々が、その自然環境を管理していることを明らかにした。 2.IPBES Values Assessment(2018-2022)に関連し、自然に関するどのような価値観が、どのような自然や人間の将来像と関係しているかを調査した。この際、より多様な価値観をレビューするため、学術論文のみならず、グレー文献のレビューも、そのレビュー方法論を開発しつつ、実施した。その結果、持続可能で公平な将来像に至るシナリオでは、自然の様々な価値がバランスよく考慮されている、ということが明らかになった。Transformative Change Assessment(2021-)でも第1章の主執筆者として、自然・社会環境と人間の心理や行動の相互関係における社会的変革に関する概念的枠組みをレビューしている。 3.国内自治体での福祉事業をとおし、個人レベルでの行動に対する意識や動機、そして実際の行動を観測してきた。参加動機を自己決定論に基づいてタイプ分けし、各参加者の行動変容を分析した結果、理論に反し、内発的動機付けの強いタイプよりも、外発的動機づけの強いタイプの方がより活動的である実態が判明した。 4.気候変動等による自然環境の変化や、社会環境の変化に対する農民や漁民の適応状況を、フィリピンの山間部および諸島部で調査した。住民による異常気象などの自然災害や、開発などによる急な自然・社会環境の変化への適応の課題を分析し、国際共同研究として展開予定である。
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