本研究は農村部での対人調査が必要であるため、COVID-19の影響で2020年度以降は全く実行できなかった。そこで、2019年度の調査のみを一旦まとめる一方、以下のように目的を変更した。 ・大学の地域連携活動としての社区営造:①参加型地域づくりには、技術支援を行う専門家集団と住民の間の「教える―学ぶ」関係に生じる主従関係が時として住民の主体性を損なうという課題がある。研究者の所属した大学では地域連携により農業振興を目的とする社区営造に取り組んでいる。そこで、住民が主体性を形成しえたとみられる事例を取り上げ、その過程を聞き取りと参与観察で詳細に追い、主体性形成の要因を分析した。その結果、住民側には明確な目標及び住民間のコミュニケーションによる新たな発想があり、大学側はファシリテーターに徹していた。②世界の大学の地域連携活動について文献調査を実施し、活動内容の地域的特徴及び研究動向の変化を分析した。その結果、地域連携の概念は各国の社会状況によって異なるが、2000年代以降は一様に大学の社会貢献に対する要求に応える方法として認識された経緯が明らかになった。また、2018年ごろからは、大学間の過当競争に勝つという意味合いを含みつつも、地域連携型の授業において教育の実質的な質の向上を図る傾向が現れていた(査読中)。 ・地域計画の視点による社区政策史の整理:台湾では社区政策に関する議論が民主化前と民主化後で分断されがちである点に注目し、両政策の接点を探るため文献調査で民主化前の政策を詳細に調べた。その結果、①当時整備された地域づくり制度が現在も存続すること、②大学による社会実践の蓄積で地域計画的視点の形成及び住民参加の萌芽があることを発見し、民主化後の政策と同様に「総体的な生活基盤整備」という側面を持つと結論づけた。 なお、本来の研究については、調査範囲を広げて2023年度以降に継続する。
|