本研究の目的は、日本・台湾・朝鮮における地図製図・印刷技術の展開過程を明らかにすることである。近代的な地図は測量技術の高度化とともに、印刷技術の向上を受けて精緻化した。地図の精緻化は測量と印刷という技術の両輪で成り立っているが、前者に比べて後者への関心は薄かった。そこで研究代表者は、地図の製図・印刷技術という地理学・歴史学・美術史学の境界領域に存在する問題に対して、人文系の総合博物館に勤務する立場を活かして研究課題に取り組んでいる。 本研究では、研究期間内に明らかにする目標として、1)19世紀後半から20世紀前半の日本で地図の印刷技術はどのように変化したか、2)同じく製図技術はどのように変化したか、3)上記の変化は東アジアという空間的な広がりのなかでどのように展開したか、という3つの課題を設定している。研究期間5年目の2023年度は、所属機関で展覧会(特別展「関東大震災―原点は100年前―」)を開催し、研究成果の公表に努めた。また、これまでの成果に基づき、研究成果報告書(神奈川県立歴史博物館編・発行)を刊行した。 研究成果報告書には地図資料の図版(51点)と関係資料の翻刻(29点)を収録した。前者は、各資料について全体図と拡大画像を掲載し、一部は部分図を加えた。拡大画像は、マイクロスコープ(倍率25倍)を用いて撮影した。後者は、朝鮮総督府臨時土地調査局で地形図の作製を担った技術課地形科の職員向け定期刊行物(「地形通報」)を掲載した。 なお、本年度の調査で、明治期の各府県における地図の作製と利用に関する資料が確認されたため、今後、分析を進める予定である。
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