本研究の目的は、中国内陸部から中国沿岸部にアラビア語通訳として出稼ぎに行く回族と呼ばれるムスリム・マイノリティの動きに焦点を当て、中国政府による「一帯一路」構想の推進に伴う中国とイスラーム諸国との間での経済交流の促進が人々の移動の活発化をもたし、イスラーム復興を促進してきたプロセスを明らかにし、宗教とモビリティをめぐる理論的モデルを提示することである。 2023年度は、中国における新型コロナウイルス感染症対策が大幅に緩和されたものの、「宗教の中国化」政策などの影響で宗教と民族をめぐる状況の緊張が高まっていたため、インフォーマントへの影響も考慮して、中国大陸における現地調査を断念せざるをえなかった。こうした状況下、報告者は研究目的を達成するために、これまでの現地調査で得られたデータの分析とその発表を進めた。中国経済のグローバル化に伴い、イスラーム用品をめぐるヒト、モノのネットワークが多民族化・多宗教化してきた状況を検討し、その成果の一部を編著として発表した。また、中国におけるムスリムのモビリティの高まりが彼/彼女らの中国社会における生活にいかなる影響を与えてきたのかについて検討し、国際学会および国際ワークショップにおいて発表した。これらの口頭発表の成果の一部は英語論文として国際学術雑誌にすでに投稿し、査読のプロセスにある。また、その他のものも国際学術雑誌に投稿すべく、執筆を進めている。 加えて、上記の研究目的を達成するための比較研究として、2023年度も東南アジアからのムスリム労働者が増加する台湾のムスリム・コミュニティを対象に、出自の異なるムスリムたちのあいだの関係性について現地調査を実施した。その成果の一部は、国内の研究会で発表し、そこで得られたコメントを踏まえて、学会誌に投稿すべく、執筆を進めている。
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