研究課題/領域番号 |
19K13456
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
高橋 絵里香 千葉大学, 大学院人文科学研究院, 准教授 (90706912)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 民営化 / 私事化 / フィンランド / 高齢者ケア |
研究実績の概要 |
今年度は、フィンランドの高齢者ケア制度の私事化/民営化の進展状況について、2019年8月~9月に計30日程度の実地調査を行った。まず、民営化の一例として多国籍企業によって買収された高齢者向けの居住型介護施設を訪問した。特に、民営化された介護施設におけるケアの質を問う報道がされているなかで、施設のスタッフがどのような見解と対策を取っているのかといった点について集中的にインタビューを行った。さらに、医療社会福祉制度改革が頓挫している状況において、地方自治体がこれまでの計画をどのように引き継いで社会サービスを運営しているのか、自治体の各部署に聞き取りを行った。こうした調査から見えてきたのは、急速に進む民営化へ懐疑の声が投げかけられることで、民間企業の進出や公的組織の効率化にブレーキが掛けられる一方で、これまで推し進められてきた自治体の広域化や親族介護支援の流れがそのまま持続するという矛盾した状況である。 以上のような調査結果を踏まえ、研究成果として、二回の口頭発表、計三冊への分担執筆、そして一冊の単著をまとめた。日本文化人類学会第53回研究大会と、比較家族史学会第65回 春季研究大会での口頭発表は、いずれも住まいを通じた老後の生活戦略と世代間の相互扶助についての考察であり、高齢者ケアの私事化の一側面を切り取ったものである。三本の分担執筆のうち、特筆すべきは、人類学的ケア論をテーマとした論集に行政の訪問介護サービスの効率化が進む中での混乱を民族誌的に描写した論文である。これはケア制度の民営化に着目したものである。さらに、『ひとりで暮らす、ひとりを支える』と題した民族誌を単著として出版し、私事化と民営化が同時に進展する高齢者ケアの現状について描写・分析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度は、単著をはじめとする研究成果を順調に公開することができた。その一方で、実地調査に基づくデータ収集は研究計画で想定していたよりも短期間となった。2020年2月~3月に予定していたフィールドワークを実施しなかったためである。しかし、これは2020年中に長期の海外研修に出ることが決定したことが理由である。2019年度の後半を海外渡航のための準備期間とすることで、2020年度以降により充実した調査の実施を目指した。
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今後の研究の推進方策 |
現在、コロナウイルスの感染拡大により、海外渡航が大変困難になっている。フィンランドでも国境が封鎖されており、さらに首都を含むウーシマー県がその他の地域から閉鎖されている状況である。情報収集に努めつつ、状況の推移を注意深く見守ることが最善の策であると考えている。その上で、2020年度の後半にはフィンランドへの渡航を目指していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度2月~3月に現地調査を実施する予定であったが、2020年度に長期の海外渡航が認められたために延期した。そこで旅費に未使用額が生じたが、2020年度の実地調査期間を延長することで使用する予定である。
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