近年アフリカの国々では、人獣共通感染症への対策が策定、実施されている。この問題については、医学、獣医学、生態学など多様な分野の専門家が分野の境界線を越えて連携する動きが広がっている。そうしたなかで、これらの感染症の対策において人間と非人間の動物の生存と健康や、それらに関する知識がどのように「もつれあっている(entangled)」のかへの関心が、人類学者のあいだで高まっている。本研究の目的は、ケニアのリフトバレー熱対策を事例としながら、人獣共通感染症対策が策定され、実施される過程で人間と非人間がどのように「もつれあっている」のかを明らかにすることである。 令和5年度は、人獣共通感染症に対する過去の取り組みの実態を明らかにするために、ケニアの国立公文書館で資料調査をおこなった。また、今回の調査では宗教系の組織による取り組みも調査の対象として含んでいた。そのため、ケニア聖公会の資料室でも資料収集をおこない、この組織が政府とどのように協同しながら家畜感染症対策に取り組んだのかを検討した。また、ケニアでは牧畜民マサイが住民の多数を占める同国南部のカジァド郡において、聞き取り調査を実施した。この調査では、前年度と同様に、リフトバレー熱を含む過去の家畜感染症の流行時の経験に関する語りを収集した。 研究成果としては、5月に開催された学会と3月の研究会で発表をおこなった。また、二本の論文を刊行することができた。
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