研究課題/領域番号 |
19K13463
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
大場 千景 大阪府立大学, 人間社会システム科学研究科, 客員研究員 (90637688)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ガダ再興運動 / 慣習法/法廷 / 権力闘争 / ルバ組織の再創造 / アルシ・オロモ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、エチオピア南東部に居住するアルシの人々において、19世紀後半に消滅したガダと呼ばれる伝統的政治体系がいかにして再構築され、実践されようとしているのかについて明らかにすることである。ガダとは、クランではなく年齢階梯を原理として地域集団を形成し、クラン集団を超えた諸問題の解決や意思決定を可能とする政治体系である。本研究では、アルシにおいて解体以前のガダに関する伝承や知識がいかなるものであったのかを明らかにしたうえで、ガダ再興に関わる人々の多様な実践や言説に焦点を当てながら、ガダがどのように語られ、概念化され、再構築あるいは再創造され、現代の彼らの社会実践のなかに新たに組み込まれていくのかを明らかにするものである。 2019年度から始まった本研究において、1)ガダの知識と実践が継承されているオロミア州アルシ西県地域におけるガダに関する伝承と知識の収集、2)ガダの実践、とくに紛争処理慣習法廷における参与観察と法廷内容の録音、3)アルシにおけるガダ再興会議での参与観察と会議内容の録音を行なった。ガダ再興運動は現在進行形の運動であり、現在もその動向を注意深く観察している。 本年度は、コロナやエチオピアでの政変、内戦の影響により、4月~9月、11月~12月においてガダ再興に関する運動が大幅に中断された。従って、申請者はデータの収集よりも、昨年度までに集めたデータの整理、ガダに関わる重要な伝承や語り、ガダ再興会議や慣習法廷のテープ起こしと翻訳に重点をおいて研究活動を行った。それらのデータをもとに学術論文を執筆し、掲載が採択された。この成果は、今年度において、『文化人類学』に掲載される予定となっている。また、3月において、慣習法廷の観察と記録、ガダの実践に関わる慣習法に関する古老へのインタビューを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は、2019年度に録音してきた慣習法廷のデータのテープ起こしと翻訳をまとめて行うことができた。このことによって、今年度、ガダの政治的実践に関する研究をさらに進展させるための基礎作りができた。 また、これまで観察、記録してきたデータに基づいて、アルシにおけるガダ再興運動の展開とその中で進行したガダ組織の再創造、及びそうした一連の政治的運動の中にみられるアルシの人々のガダの権力をめぐる闘争や社会的葛藤を記述、分析して、学術論文を執筆した。さらに、査読者とのやりとりを通して、理論的枠組みをさらに発展させることができた。これらの成果は今年度、『文化人類学』に掲載されることが採択された。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、ガダの再興運動にかかわる会議や儀礼を引き続き、観察および記録していく。さらに、ガダの実践に関するさらなる詳細なデータを収集するため、ガダにかかわる慣習法の調査対象地域における広域比較調査を実施する。また、ガダにおける紛争処理慣習法廷の観察と記録を継続的に行いつつ、ガダの役職者たちの紛争裁定に関わる経験や知識、技法に関して当人たちへのインタビューを行いながら、ガダの実践に関する分析を行う。
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