研究課題/領域番号 |
19K13467
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
齋藤 典子 東洋大学, 人間科学総合研究所, 客員研究員 (20714223)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 日・台・韓の海女労働の対照比較 / 採藻漁民の海洋資源の利用と資源分配 / 漁撈行動がもたらす資源の枯渇化と保護 / 海藻の販売、流通、消費 / 伊豆テングサの流通経路に発達した寒天産業 / 江戸時代から続く南信地域の寒天産業 / 下田市須崎区有文書調査と文書の保存活用 |
研究実績の概要 |
1)筆者の海女研究の出発点である下田市須崎に軸足を定め、季節毎の海藻種類と加工方法について1月海苔類、2月和布、4月鹿尾菜、5月天草の調査を行った。更に藻類の販売、流通、消費について調査を進めた。伊豆半島のテングサは、明治期より地元女性が加工・販売を伝統的に行ってきた。流通は、江戸時代後期より仲買人を通じて各地に出荷されてきたが、出荷先は地元でも把握されていなかった。そこで長野県茅野市に調査に出向いた結果、伊豆で採れたテングサは、江戸時代から船で富士川を遡上、釜無川沿いの山梨県身延、甲斐、韮崎から長野県茅野、諏訪、伊那、岐阜県恵那地域に運ばれ、農家の副業として棒寒天、細寒天が製造されてきた事が明らかとなった。 2)神奈川大学国際常民文化研究機構との共同研究「台湾の海女に関する民族誌的研究」の報告書を執筆した。その中で筆者は、台湾の「東北角」と呼ぶ地域の潜水漁民が採藻するテングサなどの海洋資源利用に着目し、彼らの漁業権規定を無視した漁撈行動が台湾の海藻資源保護や維持に与える影響について考察を試みた。また本科研の目的でもある日・台・韓3カ国のアマの漁撈活動と海洋資源利用の対照比較を行った。しかし、韓国の調査事例が少なく、十分な議論展開までには至らなかった。 3)懸案であった下田市須崎財産区が所有する『須崎区有文書』の調査と保存活動を開始した。同文書は、総数 1546 点の1500年代から300 年間に渡る地方文書である。これまで下田市史編纂委員会が目録を作成後、未公開史料として、地区民に知られる事なく、海辺の漁民会館内に保管されており、劣化や自然災害が懸念されてきた。今回6名の研究協力者を得て、文書の閲覧と撮影を1ヶ月間かけて終了した。今回の調査で須崎財産区が持つ「漁業権」の根拠となる安永2年3月の「山海出入御歳許証文 差上申一礼之事」など、新たに138点の文書史料を発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)2020年度から続くコロナによる渡航制限のため、韓国済州島や釜山で海女の海藻労働調査を行う事ができなかった。そのため、主要な研究目的である潜水漁民の海洋資源利用と資源分配、資源保護について 韓国のフィールドデータが不足し、日・台・韓のアマの対照比較ができない状況にある。今年こそは、韓国での調査を行いたい。 2)一方、国内調査では、海外調査ができなかった分、進展したと考える。下田市須崎の潜水漁民の海洋資源利用における共益性や公平性については、台湾の漁場利用との比較でより、鮮明になった。また、江戸時代から日本のムラ共同体で続く海や山における「入会権」制度は、現在も漁業者の漁撈活動に生きており、共同体内では、資源共有の理念に基き様々な取り決めがなされ、それが資源管理に繋がっている事が2021年度調査で改めて実証された。また、テングサの流通経路と寒天産業の発達について、調査を始めた事で、これまで海女の労働経済に主眼を置いて進めてきたが、新たに地場産業として、テングサが 地域経済に果す役割についても考察を進める事ができ、研究領域が広がったと感じる。以上の事から、国内調査は順調に進んでいるため、上記の様に判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2022度は、次の3点について研究を進める。 1)寒天生産地で原料として使われるテングサやオゴノリなどの海藻が日本国内産から海外産へと変化した背景について調査を行う。また江戸時代より、想像以上にテングサ需要が高い事が明らかになったことから、需要の歴史的背景、文化的背景、換金作物としての経済的メリットについても研究を進めたい。 2)夏以降、済州島と釜山に海女のテングサ漁における海洋資源利用と資源分配における「海女会」と「漁村契」の役割、資源保護について調査を行う。更に済州島のテングサの流通と販売についても調査を進める。 3)2021年度に行った『下田市須崎区有文書調査』の成果報告会を下田市須崎財産区協議会からの依頼で文書調査に参画した6名の研究者で行う。同時に撮影した文書1,684点、3,3616点の電子データの保存方法と今後の活用方法について地元と協議を持つ他、文書の翻刻を進め、調査報告書の作成へとつなげたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度(2020年)、当該年度(2021年度)と共に、コロナ感染症拡大による外出制限や海外渡航制限が起きた為、国内外の調査活動や研究会への参加ができず、当該助成金が生じた。 次年度使用計画として次の品目を予定している。1.旅費/国内 (静岡県下田市須崎調査2回、岩手県久慈市海女調査、長野県 茅野市と岐阜県恵那市へ寒天産業の調査2回、山梨県甲斐・韮崎地域への寒天産業の調査1回/海外 韓国済州島、釜山 1回 。2. 物品費 外付け ポータブルSSD 、小型プリンター、書籍。 3. 研究会参加費など。
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備考 |
神奈川大学・国際常民文化研究機構との共同研究、第二期(一般)「台湾の海女(ハイルー)」に関する民族誌的研究 東アジア・環太平洋地域の海女研究構築を目指して」のWEBページに掲載される筆者が2021年度に行った研究内容の一部です。
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