研究課題/領域番号 |
19K13468
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
里見 龍樹 早稲田大学, 人間科学学術院, 准教授 (30802459)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 自然 / メラネシア / サンゴ礁 / 気候変動 / 民族誌 |
研究実績の概要 |
本研究は、南西太平洋のソロモン諸島マライタ島のサンゴ礁で独自の海上居住を営む「海の民」の事例に即して、「人新世」とも呼ばれる環境変動の時代における人間-環境関係を記述する人類学的な方法論を探求するものである。当初は2022年度にマライタ島での現地調査を行う予定であったが、新型コロナウイルス感染症の流行により海外渡航が一時制限されたことに加え、調査地に移動するための国際航空便が廃止されるなどの困難が生じた。このため、同年度中に十分な調査期間を確保することは困難と判断し、やむなく現地調査を中止した。その代わり、過去のフィールドワークで得られたデータの検討と、現代における「自然の人類学」についての文献研究に取り組み、2022年11月には日本サンゴ礁学会で、人間-サンゴ礁関係を人類学的に考察することの意義について分野横断的に解説するポスター発表を行った。さらに同月には、これまでの理論的および民族誌的な研究の成果をまとめ、著書『不穏な熱帯:人間〈以前〉と〈以後〉の人類学』として河出書房新社より出版した。同書では、2000年代以降のいわゆる存在論的転回やマルチスピーシーズ民族誌、「人新世」論などの展開を踏まえ、マライタ島の人間-サンゴ礁関係を事例としつつ、「自然」について非-近代的に記述・考察する人類学の一つのあり方を示した。具体的に言えば、「海の民」にとって、つねに「育ち」、姿を変えつつあるとされるサンゴ礁は、人類学がしばしば想定してきたような「不動の背景」としての自然とは異質である。そのような人間-環境関係を記述するために求められる新たな民族誌の様式を、同書では、「岩が死ぬ」ことで「島がつねに沈みつつある」という「海の民」の語りを分析することを通して例示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染症の流行により、これまで利用していた国際航空便が廃止されるなど、さまざまな点で海外渡航に困難が生じている。このため、当初予定していた現地調査を実施できていない。
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今後の研究の推進方策 |
海外での現地調査が困難となっていることを踏まえ、今後は国内のサンゴ礁科学や保全活動の現場を対象に、代替的なフィールドワークを行うことを計画している。これにより、「脆弱な生態系」と呼ばれるサンゴ礁をめぐる多様な動きについて知り、その知見を民族誌に統合することを試みたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度に海外での現地調査を行わなかったために次年度使用額が生じた。2023年度には、国内で代替的なフィールドワークを行う際にこの金額を使用したい。
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