本研究は、メラネシアのサンゴ礁に居住する「海の民」と呼ばれる人々における環境変動の体験・認識について民族誌的に明らかにすることを通じて、現代のグローバルな環境変動について人類学的に考察するための方法論を提示しようとするものである。メラネシアのサンゴ礁は近年、生物多様性がきわめて高い海域として国際的な注目を集めているが、他方で、海水温の上昇によるサンゴの大量死滅が生じるなど、環境変動による生態系破壊が懸念されている。本研究は、このようにローカル/ナショナル/グローバルな諸動向がで交差し合う、人類学的にきわめて興味深い事象を研究対象とするものである。 2023年度にはソロモン諸島での現地調査を計画していたが、これまでの現地調査の際に利用していた航空路線が国際線・国内線ともに廃止されてしまった。このため大学の休暇期間中に海外調査を行うことがきわめて困難になった。このためやむなく海外調査を中止し、これまでの現地調査から得られたデータを再分析することに集中した。 加えて2023年度は、国内のサンゴ礁科学の現場(琉球大学理学部、沖縄科学技術大学院大学、東京大学大気海洋研究所など)での科学人類学的なフィールドワークを精力的に行い、サンゴ礁を巡る現代的な動きを分野横断的に検証することに努めた。 現代のサンゴ礁科学や保全活動をめぐっては、先行研究において、「手つかずの自然を守る」という従来型の保全から、「積極的な人為的介入」という現代的な形態への転換が指摘されていた。しかし、2023年度の調査からは、国内の研究者がサンゴ礁への人為的介入に対して必ずしも積極的でないことが明らかになった。このような相違を掘り下げることを通じて、現代のサンゴ礁をめぐる多様な動きとその基底にあるさまざまな「自然」観について人類学的に考察することができるだろう。今後、本研究の成果を発展させ、積極的に発信していきたい。
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