本研究は、文化人類学の視点から、中国伝統演劇・秦腔の俳優教育を事例分析し、伝統演劇教育の学校化の特徴と長短を明らかにすることが目的であった。そして、国営、民営、中央政府所属の中等演劇学校という3種類の演劇学校の比較分析をもとに、芸能教育の学校化の理論モデルを構築し、学校教育を通して伝承される無形文化遺産芸能の保護・伝承問題への応用を目指してきた。 最終年度は、西安の秦腔演劇界にて、上記3種類の演劇学校を訪問し、文献の収集を行うとともに、授業実践の参与観察や教育関係者へのインタビューも行った。インタビューに関しては、新たに20人の俳優に対して、下積み修業や芸歴に関するインタビューすることができた。一方、芸能教育の学校化概念を理論的に緻密化するために、能楽の研究者との共同研究も継続し、ICBEITなどの国際学会で成果発表もした。また、発表内容の一部は、『関西国際大学研究紀要』でも公表している。 研究期間全体を通じた研究成果として、上記3種類の演劇学校において、わざや身体的技能の教授・学習という観点から、学校化の特徴と長短を微視的に把握することができた。本研究に先駆けて行った関連研究では、徒弟制から近代学校へと変化した秦腔の俳優教育の学校化は、①師弟関係の脱封建化、②教授法の理論化、③学習(修業の場)と労働(上演の場)の分離、であるとしていた。しかし、本研究では、俳優の演技の創造性を促進するための仕掛けがより学校化した教育組織では特に顕著であることが分かった。そして、秦腔のような無形文化遺産化した芸能にとって、伝統の継承のみならず、伝統の革新も重要であることから、創造性の育成がどのような条件下で促進されやすいかについて、能楽などの他の芸能とも比較考察した。その成果は、すでに『関西国際大学研究紀要』を始めとするいくつかのジャーナルで公表している。
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