本研究の目的は、南部アフリカにおける人びとの「固有の会計方法」を明らかにすることである。レソト王国に住むジンバブエ人移民の行商活動における会計の方法(価値の計量、財産管理、取引記録)について人類学的フィールドワークをおこない、その結果を近代会計や監査制度と比較し、行商人たちの会計方法の独自性を明らかする。 1年目にはレソトの首都マセル郊外にあるジンバブエ人が多く移り住む地域Haleqeleで現地調査をおこない、ある行商人家族を対象に参与観察をおこないながら、行商のサイクルやリズム、日常生活の過ごし方などを理解した。その後、新型コロナ流行のため現地調査ができなくなり、研究期間を2年延長した。4年目にはオンラインでインタビューをおこない、彼らの帳簿の記録方法では掛売りや未払金回収の日付があいまいになるなど、一般的な簿記とは異なる点を確認した。同年の年度末にはジンバブエを訪れ、以前レソトで行商をしていた人びとたちと再会した。行商人家族は生活拠点をジンバブエの首都ハラレに生活拠点を移し、レソトで買いつけた繊維生地をハラレの工場で衣料品に作り変えて売る商売を始めていた。5年目には日本に住むジンバブエ人の経済活動について調査し、貯蓄手段のひとつとして故郷での家の建設があることがわかった。 レソトの行商について現地調査が十分におこなえず「固有の会計方法」を明らかにするには至らなかったが、今回の研究をとおして改めて確認できたのは、大きな環境変化のなかでも人脈や経験、技能を活用して柔軟に対応する、人びとのレジリアンスの高さだった。また、感染症の流行の影響に限らずジンバブエでは政治経済情勢が不安定でインフラ事情が悪化しており、生活を維持するために海外とのネットワークが重要であることも再確認できた。
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